高層階からの眺望の良さや高級感、充実した共用設備などが人気のタワーマンション(タワマン)。東京や大阪など都市部を中心に建設が進む一方、その将来性を危ぶむ声が上がっている。神戸市では、三ノ宮など都心部での新規の建設を事実上禁止。同市の有識者会議は今年1月、タワマンが将来的に「廃虚化」するリスクに言及し、居住実態のない所有者に市独自の税を課す案まで打ち出した。専門家が指摘するタワマンの懸念とは-。
「人口減少時代をどう乗り切っていくかを考えたとき、目先の人口増だけを考えてタワマンの新築競争をするのは、ばかげている」
1月10日の定例記者会見で、神戸市の久元喜造市長はこう強調した。
神戸市は、商業地域となる都心部への人口集中を避けるため、令和2年7月以降、「都心機能誘導地区」を指定し、JR三ノ宮駅周辺の22・6ヘクタールで住宅新設を禁止。また、新神戸駅からJR神戸駅にかけた区域には、敷地面積に対する建築延べ面積の割合を示す「容積率」が400%を超える住宅建設を規制しており、市の中心部では高層のタワマンの新築は事実上できない。
一方、神戸市内では、平成初期から全国に先駆けてタワマン建設が進行した経緯があり、建設中も含め、64棟の分譲型のタワマンがある。
こうした既存のタワマンの将来性への懸念や今後の建設ニーズなどを踏まえ、課題を検討してきたのが、市の有識者会議だ。1月8日、久元市長に最終報告書を手渡し、「都心においてはさらなる抑制を図る必要がある」と提言した。
空き部屋多く修繕積立金増額の合意が困難に
不動産経済研究所大阪事務所によると、タワマンは、その利便性の良さや資産性、充実した共用施設などの魅力から全国的に人気が根強い。一方、建築費の高騰などにより「(前年よりも)大きく増えたということはない」と笹原雪恵所長は説明する。
神戸市内では、三ノ宮などの都心部は高額だが、少し離れた垂水区などのエリアで「一般の人がタワマンを購入する傾向にある」。高齢者の戸建てからの住み替え需要のほか、ファミリー層にも人気があるとみられる。
では、そんなタワマンの何が問題なのか。
最終報告書によると、タワマンは、高層階ほど、実際には居住していない非居住(空き部屋)率が高まる傾向にある。
神戸市内では40階以上で住民登録のない部屋の割合は33・7%で、所有者の中でタワマンに住んでいない割合は58%。市外に住んでいる人も23%に上り、ほかの階層に比べて高かった。
その影響について、有識者会議は「投資やセカンドハウス目的の所有が増えることで、価格が高止まりし、居住目的の希望者が取得できない」と指摘する。
所有者の年間平均所得も、1~9階の居住者が約314万円なのに対し、40階以上は約837万円で、2・5倍以上の開きがあった。
近年分譲されるマンションの多くは、当初の修繕積立金を低く抑え、将来的に増額することを前提としている。だが、タワマンは所有者の所得にばらつきがあり、空き部屋も多い。このため増額などの合意形成は困難になるとみられ、報告書は将来の「廃虚化」の可能性に言及。「行政の代執行手続きで解体したとしても、費用を回収することは不可能に近い」と指摘した。
報告書は居住実態のない空き部屋について、「貴重な都心部の住宅ストックが活用されていない」として、所有者に対し独自の課税を行うことも市に提案。市は今後、議会などと議論を進めるとしている。
「将来に負担残さない街づくりを」
歴史の浅いタワマンはまだ深刻な老朽化には至っていないが、昭和時代に建てられたマンションの中には、既に老朽化と住民の高齢化という「2つの老い」の問題がみられるケースがある。
滋賀県野洲市では、令和2年に行政代執行により鉄骨3階建ての老朽マンションを解体。市が費用約1億円を区分所有者9人に請求したが、現在も半数以上が未払いの状態だ。
国が設置したマンションに関する検討会のまとめでは、令和4年時点で国民の1割超がマンションに居住しており、永住意識を持つ人も年々増加。タワマンについても全国で1400棟を超えた。一方、所有者の高齢化で管理組合の担い手は不足し、修繕積立金が足りているマンションは全体の約3割にとどまる。
住宅政策に詳しい摂南大の平山洋介特任教授は、「すでに既存のマンションで修繕積立金の滞納などが問題となる中、タワマンで同様の事態が起こると手の施しようがない」と指摘。「神戸市の規制は全国的にも珍しい。長期的な目線で見て、将来世代に負担を残さないまちづくりが大切だ」と話した。(地主明世)