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「輸送費は誰が負担?」ルールなきフードバンク 運営側は人手不足、寄付企業はコスト懸念

産経ニュース 2024年9月18日 10時0分

個人や企業から寄付された食品を生活困窮者に無償で届ける「フードバンク活動」が岐路に立っている。活動を巡って明確なルールが定められておらず、寄付企業とバンク側のどちらが食品の輸送費を負担するかで折り合いがつかないケースが増えているためだ。善意のバトンが途切れかねない状況に、識者は「最も損害を被るのは生活困窮者。国が旗振り役となってルール作りを進めるべきだ」と訴える。

大阪府泉佐野市の「フードバンク泉佐野」に、缶詰やゼリーなど大量の食品を積んだ営業車が到着した。車を運転するのは、明治安田生命貝塚営業所(同府貝塚市)に勤務する社員。いずれの食品も、家庭で食べきれない食品を引き取り、支援につなげる「フードドライブ」を実施する地元の大手コンビニ約10店舗から社員が回収した。

これまでフードバンク泉佐野を運営するNPO法人「キリンこども応援団」のスタッフ数人で、地元のコンビニ各店舗を回ってきた。しかし、NPO側の人員不足などで手が回らず、5月から営業活動で地域を巡る貝塚営業所の社員が運搬を無償で引き受けている。

食品引き取り委ねる大手コンビニ

食品ロスを削減する観点から、余剰食品などをフードバンクへ寄付する企業は年々増えている。消費者庁の委託で三菱UFJリサーチ&コンサルティングが今年3月にまとめた報告書によると、全国のフードバンクが令和4年に取り扱った食品量は1万449トン。元年(3650トン)に比べ3倍近くに拡大している。

フードバンク泉佐野の場合、地元を中心に約100社が寄付に協力している。多くの企業はフードバンクまでの運搬も担っているが、大手コンビニなど一部企業は、食品の引き取り作業をNPO側に求めている。このため、人手も運搬手段も乏しいNPO側は苦しい運営を迫られている。

キリンこども応援団代表の水取博隆さん(42)は「活動は企業の協力があってこそ。寄付は大変ありがたい」としつつ、「生活困窮者への支援にこそ注力したいが、企業側の理解が得られないと食品回収の負担は大きい」と頭を抱える。大手コンビニの担当者は「食品の受け手側と適宜話し合った上で実施しており、取り組みに問題があるとは聞いていない」とする。

NPO側の窮状を知り、明治安田生命のほか、泉佐野市の物流会社「MSYロジ」も食品の寄付が大量にあった際に運搬を無償で引き受けている。同社社長の服部将也さん(40)は「物流を通じてできる社会貢献の一環として団体を応援したい」と話す。

福祉活動を「ごみ箱」とはき違え

米国発祥のフードバンク活動は、平成10年以降に国内でも広がり始めた。近年は国連が定めるSDGs(持続可能な開発目標)と直結する取り組みとして、参入団体が右肩上がりに増加。農林水産省によると、今年5月時点で全国で約270団体が活動している。

ただ、食品運搬を含め活動に関するルールが十分整備されているとは言い難い状況だ。「フードバンク活動における食品の取扱い等に関する手引き」(平成28年、農水省)や「フードドライブ実施の手引き」(令和4年、環境省)を見ても、食品運搬の主体を企業と受け手のどちらが担うのかは明記されていない。

フードバンク団体の全国ネットワーク組織「全国フードバンク推進協議会」代表理事の米山廣明さん(40)は「(運搬を巡る)同様の問題は各地で起こっている。特に新興のフードバンク団体が多い関西圏でよく見られる」と明かす。

また、フードバンク団体の増加に伴い、一部企業側が輸送費のかからない寄付先を選ぶ傾向があるという。余剰食品の廃棄コスト削減が本来の目的ではないかとの見方も出ており、活動現場からは「福祉活動をごみ箱とはき違えた『SDGsウォッシュ』(実態の伴わないSDGs活動)と受け止められかねない」と憤る声も上がる。

米山さんは「企業は社会貢献の意味を改めて見直してほしい。食品が行き渡らなければ何より困るのは生活困窮者だ」と強調。「国が旗振り役となって、運搬は企業が担うと明文化すべきだ」と訴え、関係省庁とガイドライン作成に向け協議を進めているという。(木ノ下めぐみ)

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