Infoseek 楽天

使用済み太陽光パネル 加熱処理でリサイクル 再エネ適地の北海道で進む最先端技術実証

産経ニュース 2025年1月22日 11時0分

再生可能エネルギーとして注目されている太陽光発電の耐用年数を超えた太陽光パネルが2030年代に大量排出されることを見据え、リサイクルに向けた動きが本格化している。多くが破砕・埋め立て処理されている現状を変えようと、再エネ適地の北海道で進む最先端の処理技術の実証事業を取材した。

1枚当たり4分

札幌市の中心部から直線距離で約30キロ離れた南幌(なんぽろ)町。ここでは化学製造業のトクヤマ(東京都)が新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と共同で、使用済み太陽光パネルから構成部材を高品質の状態で抽出するリサイクルの事業化に向けた実証事業を進めている。

太陽光パネルはガラス、光エネルギーを電力に変換するセル、セル同士をつなげるリボンなどの部材が樹脂で強固に結合している。耐用年数超えなどで「使用済み」として排出され、修理で再利用できない場合の選択肢として部材のリサイクルがあるが、抽出方法が課題となり、現状では多くが破砕、または埋め立て処理される。

トクヤマとNEDOが共同開発した技術では太陽光パネルを熱分解炉で低温加熱して樹脂部分を溶解し、ガラスやセルなどを部材ごとに分離できる。加熱処理の際は特殊なフィルターですすが出ないようにし、熱を炉に再循環して加熱時のガス消費を低減させる。

実証段階では60セルタイプ(縦80センチ、横160センチ)の使用済みパネル1枚あたりの分離時間は約4分。年間では約10万8000枚を処理できる計算だ。施設で作業を取材すると、分離されたガラスは原型が保たれており、状態は極めて良好。セルやリボンも素材ごとに分別され、スムーズにリサイクルが行われていた。

リサイクル義務化へ議論

同社環境事業開発グループ南幌開発課の山下丈晴課長は「ガラス部分を高品質な板ガラス素材として再利用できる。このほかの部材もほぼすべてリサイクルでき、ごみになるものはほとんどない」と胸を張る。

国内の太陽光発電設備は1993(平成5)年に住宅用が登場して普及が始まった。2012(同24年)には政府の固定価格買い取り制度(通称FIT制度)がスタートしたことでメガソーラーなどが急速に増加し、現在もその数は増え続けている。耐用年数は25年から30年とされ、2030年代後半以降に「大量廃棄時代」を迎える見通しだ。

環境省のガイドラインなどによると、国内では年間約4400トンの使用済み太陽光パネルが発生。30年代後半以降に最大で年約50万トンが排出される見込みで、埋め立て処理される最終処分場が早期に逼迫(ひっぱく)する懸念があることが指摘されている。

建材用ガラスで活用も

こうした状況を踏まえ、政府は昨年9月に使用済み太陽光パネルのリサイクル義務化に向けた議論をスタートしており、トクヤマとNEDOの取り組みが実れば、リサイクルを大きく後押しすることになる。昨年3月にはこの技術で分離されたガラスを建築用ガラス向けとしてリサイクルする大手ガラスメーカーのAGCの実証実験が成功したことが発表された。

今後はコストが焦点となる。破砕・埋め立て処理コストが60セルタイプで1枚あたり2000~5000円といわれているが、トクヤマの山下課長は「この水準に持っていけると思う」。大量廃棄時代に向けた新技術の広がりが期待される。(坂本隆浩)

この記事の関連ニュース