山梨県の富士五湖の1つ、本栖湖にいるはずのない北米原産の大型外来魚「レイクトラウト」が初めて釣り上げられ、確認されたのが令和4年11月。繁殖による悪影響が懸念される中、6年10月には秋のヒメマスが試し釣りで釣果がなく、漁の解禁が初めて見送られた。漁協など地元関係者はレイクトラウトによる食害が原因とみており、この春のヒメマス漁の再開を目指して対策に本腰を入れている。
遊漁券収入はゼロ
「収入はゼロだが、支出約500万円。春までなんとか生き残ってくれ」
本栖湖漁協の伊藤正一組合長は昨年11月、祈る思いでヒメマスを放流した。例年なら稚魚だが、今回はレイクトラウトの食害には稚魚よりも遭いにくいとして体長が12~20センチ程度の成魚を放った。
ヒメマス漁を解禁できず、ヒメマスの遊漁券収入はない。さらに放流の費用は例年と同じでも購入費は重量で決まるため、放った成魚数は稚魚のときの半分以下の約3万尾だ。成魚放流は「苦しい決断」(伊藤組合長)だった。
本栖湖では春秋の各1カ月間のヒメマス漁が解禁されるが、5年ほど前から不漁が続いていた。原因解明に向けて各種調査したが、水質などにも変化はなく原因は不明だった。その中でいるはずのないレイクトラウトが確認され、その胃袋から消化されていないヒメマスが見つかり「レイクトラウトがヒメマス減の原因」と関係者はみている。
腹に発信機で行動確認
成魚放流の漁協に続き自治体も対策を急ぐ。山梨県は本栖湖に刺し網を入れてレイクトラウトの生息状況を調査し、「自然繁殖が進んでいる可能性が高い」とした。そのうえで、釣り上げた約30匹のレイクトラウトの腹に発信機を入れ、再放流し行動を確認している。産卵場所を特定し、そこでの一網打尽を狙う。
さらに昨年12月、本栖湖がある富士河口湖町がレイクトラウト駆除のため、ふるさと納税の「ガバメントクラウドファンディング」の仕組みを活用する寄付募集を始めた。雑魚の遊漁券を買ってくれた遊漁者がレイクトラウトを1匹釣り上げるごとに1000円の駆除協力金を提供するための資金で、人海戦術で駆除する作戦だ。
募集期限は3月8日。目標200万円に対して寄付金は今月10日夕時点で370万円を超えた。担当者は「今後は趣旨を理解して、駆除に協力してくれる釣り人を増やしていきたい」と話す。
生態系のトップに
レイクトラウトは国内では水産庁が昭和40年代に栃木県の中禅寺湖に試験放流し定着。野生生息域が広がると、生態系に悪影響を及ぼす恐れがある「産業管理外来種」に指定され、中禅寺湖だけの生息に限定されている。本栖湖では密放流の可能性が高く、富士河口湖町農林課の担当者は「すでにレイクトラウトが毎年1万尾以上放流するニジマスを超え、生態系のトップにいる」という。大正6(1917)年から始まり、本栖湖において最も重要な遊漁、観光資源であるヒメマス釣りがこの春に再開できるか、事態は正念場を迎えている。(平尾孝)
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レイクトラウト 北米大陸に広く分布するイワナ属の魚で、小魚や昆虫を餌にする肉食で食欲は旺盛。体長が1メートルを超えるケースもあり、ほかの魚を激減させることもある。ニジマスやブラウントラウトは河川で産卵するため、人工的な固体管理ができるのに対し、レイクトラウトは湖の中だけで自然繁殖できるうえ、産卵しても死なず、50年近く生きるケースもあり、爆発的な繁殖の懸念がある。