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フードロスと子供の貧困問題を1缶で解決 食べると満腹になる「世界一温かい缶詰」の中身

産経ニュース 2024年12月12日 11時0分

廃棄される食材を使ったオリジナル缶詰を活用し、子供の貧困やフードロス問題などの社会課題の解決に取り組むネイリストがいる。一般社団法人「コノヒトカン」(岡山県倉敷市)の代表理事として活動する三好千尋さん(43)。「子ども食堂」などへの缶詰の無償提供や小中学校での出前授業などを精力的に行う三好さんは「たくさんの人たちの思いが詰まった世界一あったかい缶詰だと自負している。食や人との関わりの大切さを知るきっかけになってほしい」と話している。

コロナ禍がきっかけ

長野県出身の三好さんは高校卒業後、東京で化粧品販売業で働き、結婚を機に岡山に移住した。3人目の子供を出産した後、「中高校生時代の夢だったネイリストになりたい」と一念発起、職業訓練校に通って資格を取得した。「ママさんのためのネイリスト」を目指し、夜間に自宅に訪問して施術を行うネイリストとして働き、その後、倉敷市でサロンを開いた。

新型コロナウイルスが感染拡大していた令和2年春。以前に異業種交流会で知り合った飲食店主らがコロナ禍で困っているのを助けたいと、サロン前で各店が作った弁当の販売を始めたのが活動の出発点となった。参加店舗は倉敷、岡山両市の16店舗にまで広がった。

コロナ禍の影響で余った食材が捨てられていることにも心を痛め県内のホテルを回り、廃棄食材を集めた。長期保存できる缶詰を製造しようと考えたものの、販売計画が見通せず頓挫しかけた。

そんな中、ホテルの料理長らの「一番苦しかったときに元気を与えてくれた。今度は私たちがバックアップする」との言葉に勇気づけられ、缶詰を一般向けには販売せず社会貢献活動に活用するという仕組みを着想。廃棄される食材を利用したオリジナルの缶詰「コノヒトカン」を開発した。

1缶でおなか満たす

コノヒトカンは、牛肉の脂身と野菜をトマトピューレで煮込んだ「ニクカン」と、サワラやサバなどの廃棄部分にカレー粉をまぶして素揚げした混ぜごはんの素(もと)「サカナカン」の2種類がある。1缶160グラムで、ご飯に混ぜたり、料理に使ったりすれば3~4人前になる。「1缶でおなかいっぱい」がコンセプトだ。

レシピは岡山県の飲食業活性化団体「六式会」に所属する料理長らが考案。ネーミングは料理人らのアイデアで「この1缶」「この人感」「この日と缶」などの複数の言葉を重ね合わせている。

支援・協賛企業を集める際には三好さん自らが「いきなり電話作戦」で思いを訴えた。現在の支援・協賛企業は約60社に上る。このうち、企業名の入った缶詰ラベルがあるのは47社で、「カンヅメモ」と呼ばれる企業からのメッセージが記載されている。

アイデアコンテストも

今年は子ども食堂や児童養護施設などに2千缶を配布。さらに、小中高校でESD(持続可能な開発のための教育)・SDGs(持続可能な開発目標)活動の一環として行う出前授業にも積極的に取り組み、今年度は1100人以上の児童生徒が参加している。

出前授業で子供たちから「私たちにもできることはありますか」との声を聞き、高校生を対象にした社会課題解決アイデアコンテスト「コノヒトカン1000缶プロジェクト」を思い立った。県教育庁に掛け合い、周囲の反対を押しのけて3年前にスタートさせた。

今年から対象を専門学校生・大学生、全国に拡大。エントリー21校51チーム、10月の大会には21校24チームが出場し、能登被災地支援などを発表した。

コンテストではコノヒトカンの活用方法が発表され、入賞10チームには各100缶を上限に提供される。その後、それぞれの提案を実践するが、三好さんによると、「出場前から行動・実践に移している子供が多い」という。

出前授業で関心が高まり、缶詰に記された企業のメッセージに返事を書く子供も増え、思いのバトンがつながっていると感じている。「缶詰から始まる物語。受け取った人も届けた人も、一人一人が物語の主人公になれる魔法のアイテムだと信じている」と三好さん。「『誰かのために』と願う熱い思いを地域に、全国に広げたい。子供たちには自分の可能性を信じて挑戦してもらい、希望に満ちた明るい未来を一緒につくっていきたい」(和田基宏)

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