メインストリートを歩くとレンガ造りの旧郵便局や蔵屋敷など昭和の時代に紛れ込んだような錯覚にとらわれる。宮城県丸森町は、阿武隈川の恵みや豊かな山々の自然があふれる。だが、この町は「猫神さまの町」という一風変わった〝別の顔〟も持つ。言葉の響きに吸い寄せられるようにして町を訪ねてみた。
丸森町はかつて養蚕が盛んだったことから、ネズミから蚕を守るために多くの農家で猫を飼っていた。そして死んだ猫を供養する石碑も多く建てられ、いつしか「猫神さまの町」として知られるようになった。猫は繭の豊穣(ほうじょう)を祈念する象徴とされており、80基以上ある石碑は全国一ともいわれる。
町内各所に点在するお寺でも、猫神がお出迎え。修行僧が立ち寄っていた愛敬院では入り口ですまし顔。小高い丘の上にある瑞雲寺では、体をくねらせた姿で観光客にアピールする。
中心に豪商の邸宅
丸森町の中心部を貫く県道45号沿いは大正から昭和のレトロな雰囲気だ。町のランドマークといわれる齋理(さいり)屋敷は江戸後期から7代にわたって繁栄した豪商、齋藤家の邸宅で、ぜいを尽くした甲冑(かっちゅう)やひな人形などがズラリ。
このほか町内には、昭和12年建築の旧耕野郵便局やレンガ造りの旧丸森郵便局。かつての大地主、氏家家が建築した宅邸を整備した郷土資料館など、歴史が次々と目に飛び込んでくる。
旧丸森郵便局を改装し、陶芸作品などを創作・展示・販売する「ギャラリーショップ草舟」を開いているのが、丸森町出身の陶芸家、平野照子(しょうこ)さん(52)だ。
「私が小さいころから、町のあちらこちらで猫にまつわる石碑を目にしていました」。平野さんは新潟県で創作活動をしていたが、令和元年に台風19号が宮城県を襲い、丸森町も大きな被害を受けた。その惨状を見て、「離れた場所で何もしないでいることに罪悪感があった」とUターン。起業家版の地域おこし協力隊員として暮らす。
平野さん自身も自宅で3匹の猫を飼っているほどの猫好きで、作品の多くは猫モノ。「新潟から戻ってきたら、いつのまにか『猫神さまの町』になっていたんでビックリ。本当に猫神さまに呼ばれたかもしれませんね」
骨壺を作る陶芸家
そんな平野さんが取り組んでいるのが、天国へ旅立った愛猫のための骨つぼ。飼い猫の写真を参考に、猫用骨つぼを作るクラウドファンディング(CF)を募っている。町を知ってもらうきっかけのひとつにしたいという。
骨つぼは高さ約18センチ、重さ約900グラム。CFサイト「Makuake(マクアケ)」で4万6200円を寄付すると、返礼品として生前の画像を基に制作する流れだ。限定20個で、募集は11月5日までだが「可能な限りは製作したい」という。
猫の骨つぼを思い立ったのは、自身の愛猫が死んで遺骨を手元に置いて供養している経験から。「面影を残した温かみのある骨つぼを作っていきたい」と優しく話す。
歴史と猫が楽しめる丸森町。東北観光の候補地の一つに入れてみては。
(菊池昭光)
宮城県丸森町 JR仙台駅から東北線槻木駅で阿武隈急行線に乗り換えて丸森駅下車。JR福島駅で阿武隈急行線に乗り換えて丸森駅下車。東北道村田ICで降りて約40分で丸森。常磐道山元ICからは約25分。