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群馬舞台の本格アニメ「菜なれ花なれ」放送開始で〝聖地巡礼〟に期待 ロケ地マップ製作も 深層リポート

産経ニュース 2024年7月21日 12時0分

群馬県の高崎、沼田、前橋の3市を舞台にしたアニメ「菜なれ花なれ」(略称なれなれ)がテレビ東京系列で7日、始まった。個性も境遇もバラバラな6人の女子高生がチアリーディングを通じ、さまざまな人々を応援(チア)していく物語。モーションキャプチャー(現実の人の動きをデジタル化する技術)を使ったチアダンスの映像は本格的で、背景の群馬の景観はリアル。制作に協力してきた3市や群馬県では地元を前面に押し出した本格アニメの登場に「聖地巡礼」を期待する声が上がっている。

随所に群馬の景観

冒頭、いきなり高崎名物だるまのアップが登場する初回の映像は高崎駅、高崎アリーナと続き、主題歌の背景には高崎の中央銀座や沼田市の街並みが登場。さりげなく高崎市庁舎も遠景として描かれている。

チア以外に新体操のお嬢様やブラジルからの帰国子女、フランス発のパルクール(壁や階段などを利用し、走る・跳ぶ・登るという身体能力を追求する運動)で登下校する女子高生も。原作のないオリジナル作品だけに先が読めない面白さもある。

動画配信などを手掛けるDMM.com(東京都)と質の高いオリジナル作品で定評のあるP.A.WORKS(富山県南砺市)の共同制作なのも地元には心強い。全国放送のほかネットでも随時配信される。

群馬が選ばれたのはスタッフに群馬出身者がいて、高崎アリーナがチアの世界大会会場にもなっていたから。群馬の景色も気に入ってもらえたようで、初回ラストシーンは沼田の「団子坂(トンネル坂)」が印象的に使われている。

「君の名は。」の衝撃

アニメツーリズムが衝撃を与えたのは、平成28年公開の映画「君の名は。」とされる。舞台の一つ、岐阜県の飛驒古川駅や飛驒市図書館などを訪れるファンが激増、「聖地巡礼」が流行語大賞にノミネートされ、岐阜が舞台のアニメ映画2作品と合わせた経済効果は253億円と試算された。テレビでも19年放送の「らき☆すた」に登場した埼玉県久喜市の鷲宮(わしのみや)神社も初詣参拝客が3倍以上の30万人に増え、その後も40万人台を維持という実績がある。

秀逸なアニメには映画以上にコアなファンがつく。最近はこの層に、コロナ禍による巣ごもりで日本アニメに目覚めた海外のファンが加わった。28年に設立されたアニメツーリズム協会(富野由悠季会長)が集計している「訪れてみたい日本のアニメ聖地88」の2023(令和5)年版では、投票総数約11万票のうち海外票が約3・3万票だったという。

彼らは今、インバウンドの一角を占める。観光庁によると、昨年7~9月に映画・アニメゆかりの地を訪れた訪日外国人は推計で56・6万人に上った。

等身大のこだわり

テレビの深夜帯やネット配信にも進出した最近のアニメ作品には、ダークファンタジーものも目立つが、「なれなれ」では空も飛ばないし鬼も怪獣も出てこない。普通の女子高生たちが悩みながら「応援(チア)」の意味を探していく。等身大だからこそモーションキャプチャーを使い、専門団体の監修まで受け、群馬の自然や光の表現にこだわる。

「他ではちょっとないような特異なレベルで、美術と作画が調和しているところを、ぜひ見ていただきたい」(柿本広大監督)

そのあたりはファンも承知で、高崎と沼田で実施した上映会には予約席数の数倍の応募があり、高崎では3分の2が県外からだった。期待を込め、3市と県は現在、精巧なロケ地マップの製作を進めている。

アニメ聖地 アニメツーリズム協会がまとめた最新の「訪れてみたい日本のアニメ聖地88」の2024(令和6)年版(87作品)によると、「ウルトラマンシリーズ」(福島県須賀川市)や「ケロロ軍曹」(東京都西東京市)「エヴァンゲリオンシリーズ」(神奈川県箱根町)など懐かしい名前が並ぶ。群馬は人気の「宇宙(そら)よりも遠い場所」(館林市)がリスト入り。東高西低で、東京都は32作もあるが大阪府はゼロ。埼玉13作、神奈川は8作だった。

~記者の独り言~ 「地元の風景が忠実に再現されていて、感動しました」。始まった「菜なれ花なれ」を見た沼田市観光協会の担当者の感想は、地元に共通するものだろう。アニメで描かれた映像に実写とは違った感動を覚えるのは、作画が一種の芸術品だからか。2次元のセル画に光や奥行きを加えて3次元の世界を作り、膨大な量を連写してドラマが展開される。等身大のアニメの奥深さに改めて気づかされた。(風間正人)

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