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「窓びっしり」カメムシ大量発生に全国の果樹農家が悲鳴 異例の警報、秋に再びピークか

産経ニュース 2024年7月30日 8時0分

強烈な悪臭を放ち、果物などに被害を及ぼす「果樹カメムシ」。今年は全国的に大量発生しており、32都府県が警戒注意報を発令するなど対策を呼びかけている。中でも愛媛県は異常な発生が続き減少しないなどとして28年ぶりに「警戒警報」を発令。県によると特に生産量日本一のキウイフルーツで被害が大きく、調査した39農地の全てで被害が確認されたという。他府県でも被害は相次いでおり、生産農家を悩ませている。

「窓ガラスにびっしり」

「これだけのカメムシはここ数十年記憶にない。まさに異常事態だ」

愛媛県伊予市の中山地区でキウイフルーツを生産する橡木(とちぎ)隆博さん(72)はこぼす。橡木さんによると、カメムシは今年4月中旬ごろから飛び始め、6月ごろには「夜になると自宅の窓ガラスにびっしり張り付いていた」。実をつけたばかりの6月ごろに被害に遭うと、実が割れて出荷できなくなるため、当時は連日摘果作業に追われたという。

実が大きくなると、外見では被害の有無が判断できないため、12月のサンプル調査を待つ必要がある。もし被害があれば、その園地で取れた実は全て早期出荷が必要となり、春先まで貯蔵して出荷するより1~2割程度価格が下がるという。

愛媛県のキウイフルーツは令和4年度の都道府県別収穫量で全国1位を誇り、全体の20%以上を占める。同地区は約80戸の農家がキウイフルーツを生産する一大産地で、地元ではカメムシの大量発生を受け全農家一斉に防除処理を行うなど異例の対応を実施。しかし、橡木さんは「例年以上に気を付けて対策しているが、農薬での防除も限界がある。あとは調査のときに被害がないことを祈るしかない」と話す。

スギ・ヒノキの豊作で異例の警報

カメムシは、いわゆるカメムシ目に属する昆虫の総称。日本には千種類以上が生息するといわれる。このうち果樹に被害をもたらすのはチャバネアオカメムシやツヤアオカメムシなどで「果樹カメムシ類」と呼ばれる。

体長約1センチで、寿命は1年半程度。5月下旬~8月にかけ、1回の産卵で多いときには約100個の卵を産み付ける。約1週間で成虫になり、秋以降はスギやヒノキの球果を食料にし越冬。春先から夏にかけて園地に飛来し、かんきつ類やモモ、カキ、ナシなどの果実にストロー状の口を刺して養分を吸う。

愛媛県病害虫防除所が7月上旬に実施した調査では、光で誘引する方法で平年の約15倍のカメムシを確認。調査したキウイフルーツの39の園地全てで被害が確認され、被害果率は38・4%に上った。他にも県特産のかんきつ類やカキの園地でも、前回警報が発令された平成8年を大きく上回っている。

県の担当者によると、昨年秋にスギやヒノキが豊作だったため、それを餌に大量発生した。また秋以降に台風などがなかったことや暖冬の影響で多くの個体が越冬したとみられるという。

農林水産省によると、カメムシの大量発生は全国的にも同じ傾向で、関東から九州まで広範囲で確認されており、7月19日時点で32都府県で警報・注意報が発令。愛媛県の警報発令は全国的にも22年の鳥取県以来で、担当者は「全国的にも異常な発生」と話す。

各地で被害、秋以降も油断禁物

実際に愛媛県以外でも深刻な被害が出ている。

今年3度の注意報を出した和歌山県ではモモの被害が深刻だ。県によるとカメムシが実を吸うことで落果やヒビ割れなどが発生し、収穫量は「例年の7~8割程度の見通し」(担当者)。さらに、収穫できたとしても被害で変形した実の販売価格は通常の3~4分の1程度にとどまるため、生産者にとって大きな痛手になる恐れがある。生産量日本一のウメでも同様の被害が出ているという。

鳥取県でも、ナシを中心に食害があった。しかし、被害が大きく生育させる実を選別する間引き前だったことや、早めに実の袋かけを呼びかけたことで「今のところ大きな被害はない」と担当者は話す。

しかし油断は禁物だ。農林水産省の担当者は「今年はスギ・ヒノキの球果が少ないとみられる。山で今年孵化(ふか)した世代が秋以降に養分を求めて農地に飛来する恐れもある」と説明。「秋に2度目のピークが来る可能性もある。各地域の発生状況に細心の注意を払い、それぞれの地域で適切な防除措置を取って作物を守ってもらいたい」と呼びかけている。(前川康二)

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