千葉商科大(千葉県市川市国府台)商経学部4年生の芹沢孟さん(22)が、長く地元で愛されながらも2年ほど前から営業を休止していた中華料理店「萬来軒(ばんらいけん)」の事業を引き継ぎ、復活させた。独自に試行錯誤を重ね、ラーメンや唐揚げといった看板メニューの先代の味を細かく再現。満を持して11月から営業を再開した。同大の学生や地元住民らはお手頃価格の町中華のおいしさに沸いている。
「めっちゃ、いいにおい」「これはうまい。うまい!」
11日夜、同大前で明かりをともす萬来軒で、クラブ部活動を終えた体格の良い学生たちがつどっていた。ボリューム満点のメニューをあっという間に平らげる。
芹沢さんは「ありがとうございます」と、にこやかに店を切り盛りする。
低価格の絶品料理
手羽を割き、チューリップの花のような形状をした「萬来軒唐揚げ」(税込み500円)は一度食べるとやみつきになる逸品だ。噛むとカリっとしたころもから、ジューシーな鶏肉のうま味があふれる。
味噌(みそ)ラーメン(750円)は、数種類の味噌をブレンドし、細かく刻んだ野菜を混ぜた奥深い味のスープが特徴だ。肉汁たっぷりの焼き餃子(350円)も欠かせない。
メニューは低価格だ。高くても750円と、手ごろに本格的な中華料理を楽しめる。
1日の再オープン以来、学生に限らず、同大の教職員やサラリーマン、近隣の病院職員も引きも切らず詰めかける。
「多くのお客さんが来てくれて、うれしい。味も評価してくれる人が多く、安心している。メニューも徐々に増やしたい」(芹沢さん)
萬来軒は昭和32年に創業し、70年近く、地元の住民らに愛されてきた人気店だったが、2年ほど前、店主の藤ノ木政勝さん(61)の体調が優れなくなり、営業を続けられなくなった。
大学との間で同店をどう引き継ぐかとの話が持ち上がるなか、今夏、手を挙げたのが芹沢さんだった。
同大に進学したのは在学生に起業の機会を提供する同大の取り組み「学生ベンチャー食堂」の経営に挑戦しようと考えたからで、実際に同食堂で「本格的なクオリティー」をコンセプトに、ラーメンなど、あくまで質にこだわり抜いた中華料理を提供してきた。
昨年春からは1年間、休学し、外食する文化が根付き、自炊する機会が多くはない台湾に留学する機会を得た。現地では、貧しい家庭を対象に、手軽に調理できる和食やカレーライス、コロッケなどの作り方を伝授するイベントを実施した。食を通じて人を喜ばせることにやりがいを覚えた。
萬来軒の事業承継にも興味を持つようになったものの、営業再開への道のりは平坦(へいたん)ではなかった。「学生に店を任せられるのか」と疑念を抱く店主の藤ノ木さんの元に何度も足を運び、本気度を伝えた。こうして信頼を得た。
「愛される店に」
同店ではこの2年の休業中に傷み、使えなくなった調理器具も多かった。そこで、リース契約を結び、価格を抑え、準備を進めた。
客席に配置するスペースも改装した。ただ、壁のタイルのような、町中華ならではの独特の雰囲気を感じられる部分はあえて残した。アルバイトの募集やシフト管理も一手に担う。
伝統の味の再現には一番苦労した。
「先代に認めてもらえないものをお客さまには出せない。長く愛されてきた店で住民の皆さんをがっかりさせるわけにはいかない」
藤ノ木さんに全メニューを繰り返し試食してもらい、少しずつ、お客に愛される味に近づけた。
醤油(しょうゆ)ラーメンや塩ラーメンに入れる「鶏油」には、野菜のエキスなどが配合された「完成品」は使わない。
あくまで鶏の脂肪の塊をそのまま仕入れて熱し、抽出することで、先代が生んだ深みのある味を作り出した。
藤ノ木さんからは「味は大丈夫。お客さま第一の思いで、努力を惜しむな」と激励を受け続けた。
芹沢さんは来年春には卒業し、金融機関で働くことが決まっている。
このため、それまでに店の経営を安定させ、別の学生にさらに引き継いでもらう計画だ。
「ぜひ経営に挑戦してもらい、この先も地域でずっと愛されるお店になればいい」と語る。これまでに自分なりに培った経営のノウハウは惜しみなく伝授する考えだ。
萬来軒は平日の営業。ランチは午前11時半から午後2時まで。夜は午後5時から8時まで店の魅力にひたり、おなか一杯になることができる。(松崎翼)