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オランダ船リーフデ号の船尾像「エラスムス立像」が栃木・佐野に100年ぶりの〝里帰り〟

産経ニュース 2024年8月25日 11時0分

栃木県佐野市の曹洞宗の古刹(こさつ)、龍江院が東京国立博物館に寄託していた国指定重要文化財「木造エラスムス立像」が約100年ぶりに「里帰り」することが決まった。来年1月下旬にも同市立吉澤記念美術館で公開される。同立像は平成14年に栃木県立博物館で開館20周年の企画展で公開されているが、地元佐野では初の公開となる。

龍江院や同院護持会の檀家(だんか)らなどが昨年、「木造エラスムス立像」の里帰りを佐野市に要望。同市が東京国立博物館に里帰り展示を求めていた。

同院などによると、「エラスムス立像」は西洋の大航海時代にオランダの貿易会社が航路の開拓や東洋の国々との交易のため編成した5隻の船団のうちの1隻「リーフデ号」(当初はエラスムス号)に航海の守り神・船の目印として取り付けられていた船尾像。1598年6月にオランダのロッテルダムを出航し、リーフデ号だけが苦難の航海の末、1年10カ月後の1600年4月に豊後国(大分県)臼杵に漂着。この船には後に徳川家康に仕え、幕府の外交、貿易の顧問になったウィリアム・アダムス(三浦按針)やヤン・ヨーステン(耶揚子)らが乗船し、日蘭貿易のきっかけとなった。

この像が龍江院に伝来した理由は諸説あるが、船尾像は当時幕府の大砲方をしていた旗本、牧野成里の手に渡り、知行地の菩提(ぼだい)寺、龍江院に納めたともいわれる。

同院では「貨狄様(かてきさま)」と呼ばれて伝わり、えたいの知れない不思議な木造として祭られていたという。

大正時代の末、足利の考古学者、丸山瓦全によって調査が行われ、オランダの神学者で啓蒙(けいもう)思想家、エラスムスの像であることが判明した。昭和5年に国宝(戦後、国重文に指定替え)に指定され、現在は東京国立博物館に寄託されている。

「エラスムス立像」は総高121センチ、像高105センチ。木造の左手は欠けているが聖書をもっていたとされる。右手には巻物をもち「ERA□MVS R□TT□R□□M1598」(□は欠損)の文字が判読でき、「エラスム ロッテルダム 1598」と書かれていたらしい。

龍江院住職の大沢光法さん(78)は「立像が佐野を離れて約100年。里帰りは先代住職からの夢だった。かなえられて本当にうれしい」と感無量の様子。同院護持会会長の横塚和夫さん(79)も「100年ぶりの里帰りが実現できてよかった。地元での公開は今回が最初で最後になるかもしれないが、多くの市民に見てもらい、その歴史にも触れてほしい」と話した。

なお、里帰り展示では講演会なども予定され、エラスムス立像の歴史ロマンや謎に迫るほか、エラスムス立像など佐野の文化財保護に尽力した丸山瓦全の資料などの展示も計画されている。(伊沢利幸)

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