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バス・路面電車で全国初キャッシュレス割引 地方公共交通が繰り出す「ウィンウィン関係」

産経ニュース 2024年10月4日 8時0分

伊予鉄グループは10月、松山市内を中心に運行する路線バスと電車全線で、全国初となるキャッシュレス割引をスタートした。交通系ICカードや決済アプリを利用すれば運賃を一律20円割り引く。狙いはドライバーの負担や現金管理コストの軽減。地方公共交通は需要減や人手不足などを背景に苦境が続いており、路線バス事業者は9割近くが赤字の状態という。日本バス協会の会長も務める同社の清水一郎社長は「お客さまにメリットを提供しながらキャッシュレス化を推進し、公共交通網を維持していきたい」と話す。

キャッシュレスで経費を圧縮

伊予鉄グループは、松山市中心部に位置する松山市駅を拠点に、路線バスや高速バスのほか、市内をめぐる路面電車や愛媛県伊予市、東温市方面を結ぶ「郊外電車」などを運行する。

キャッシュレス割引は同社が展開する交通事業のうちICOCAやSuicaなどの全国交通系ICカードやモバイルICOCAのほか、自社の「みきゃんアプリ」に対応する路線バスや路面電車など。一律大人20円、小児10円を割り引く。

さらに10月中は路面電車に限り「みきゃんアプリ」利用で20円分のポイント還元も実施する。キャッシュレス決済時の一律値引きは全国のバス・鉄道事業者で初という。

同グループでは物価高騰や人件費増などを背景として10月から値上げを実施。同時期にキャッシュレス割引を導入することで、値上げによる負担感を軽減する狙いがある。

しかし、それ以上に期待するのはキャッシュレスの利用拡大だ。清水社長は「キャッシュレス普及でさまざまな経費が圧縮できる。割引を導入することでこれを機に一気にキャッシュレスの比率を高めたい」と打ち明ける。

年間2788万円のコスト削減?

運賃の現金決済は、乗務員による支払い金額の確認や両替が発生し、運転の安全性やダイヤの遅れなどの課題ともなる。さらに営業後の集計や銀行入金コストもかかる上、1台当たり約200万円という料金箱の設備費用も必要となる。

国土交通省はもし仮に路線バスを完全キャッシュレス化すれば、保有車両100両の事業者で年間2788万円のコスト削減効果があると試算。大きな経営改善効果が見込めるとして、11月から18事業者29路線で完全キャッシュレスバスの実証実験を開始するなど、キャッシュレス決済のさらなる普及に努めている。

同グループのキャッシュレス決済利用率は直近で鉄道75%、バス80%程度という。清水社長は「バス・鉄道ともにキャッシュレス利用者が増えれば増えるほど、経費削減効果は大きい。できるだけ早く都会と同じ水準の95%ぐらいまで比率を高めたい」と話す。

赤字の地方交通事業維持目指す

路線バスや鉄道は生活に欠かすことができない市民の足だ。しかし、地方の公共交通事業者は、長年続く少子高齢化やモータリゼーションの進展などに伴って厳しい経営状況が続いている。

さらに近年はコロナ禍の影響もあり、国土交通省によると令和4年度のバス事業者の87・1%が赤字となった。地方鉄道も同年度で約9割の事業者が鉄軌道業の経常収支ベースで赤字に。各社は交通網の維持に向け運行区間の見直しや減便、値上げなど必死の経営努力を続けている状況だ。

清水社長は「割引で『お得』を提供し、乗客とウィンウィンの関係を築きながらキャッシュレス比率を高めていきたい。それが公共交通の維持という我々の社会的責任を果たすことにつながる」と強調。

さらに「当社のような取り組みが全国の公共交通機関に広がれば、社会全体のキャッシュレス化もさらに進むのではないか」と語った。(前川康二)

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