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清泉女学院大が少子化の波に打った一手、農学部新設は「長野でしか学べない環境を生かす」 深層リポート

産経ニュース 2024年8月10日 8時0分

長野市で長年にわたり女性教育を担ってきた清泉女学院大が7月、令和9年度に農学部を新設する構想を発表した。開設時には男女共学化しているものの、カトリックの女子大と農学部のギャップは驚きとともに県内の話題になった。なぜ農学部なのか。取材してみると、確かな狙いがあった。

文学系だけでは経営難しく

清泉女学院大が新設を目指すのは農学部アグリデザイン学科(仮称)。農と食で地域を活性化させる人材を育む「地域創成コース」と、醸造や発酵を専門的に学ぶ「農芸化学コース」の2コースを設ける予定。入学定員は80人、学部全体で320人。キャンパスや農場は長野市の隣の千曲市の協力を得て、同市内に新設する計画だ。

7月11日、キャンパスの候補地を所有する千曲市と共同記者発表を行った田村俊輔学長は「いま日本の大学は文学系だけでやっていくのは非常に難しくなっている。農学に経済、経営を含めることで、動きが出せる」と語った。

長野県は農家数全国一

少子化は志願者の減少に直結し、全国の大学経営に影響を与えている。性別の半分だけを対象とする女子大、女子短大は特に厳しい。清泉女学院大も7年度から共学化し「清泉大学」とすることを決め、次の改革として打ち出したのが「農学部」だった。

長野県は日本一の農家数8万9786戸(令和2年農林業センサス)を数える農業県。みそやワイン、日本酒など発酵分野の産業も日本で一、二を争う。しかし県内には、農業経営の担い手を育成する農業大学校が2校あるものの、大学農学部は信州大にしかなかった。

新学部を検討してきた清泉女学院大経営企画室の木村喜昭室長は「移住人気、観光人気の長野県は首都圏から見れば魅力的で、人口減少のなかでも発展の可能性は十分にある。長野で学ぶ必要性があり、長野でしか学べない環境を生かす学部を考えた」という。

志願倍率、入学定員充足率とも増加

しかし清泉女学院大にとって農学部は「未知の領域」。学生にどんな学びの場を提供し、どんな人材を育て社会に送り出すのか、学生のニーズがあるのか。経営企画室は全国の大学農学部などを視察し検討を重ねた。

実は、平成25年度に吉備国際大が兵庫県南あわじ市に農学部を開設して以降、全国で農学系学部の新設が相次ぎ、ひそかなブームになっていた。令和9年度にはそのピークを迎える見込みだ。

日本私立学校振興・共済事業団のまとめた「私立大学・短期大学等入学志願動向」によると、令和4、5年度と2年連続で、志願倍率、入学定員充足率とも増えているのは農学系だけだった。

開設から12年目に入った吉備国際大南あわじ志和キャンパスの瀬川哲司事務長は「農学部の学生の満足度や卒業後の就職率は高い。農作物の生産だけでなく、加工、販売も含めた6次産業化、農業ビジネスに力を入れている」と胸を張る。

清泉女学院大の木村室長は「全国の農学部を視察して気づいたのは、学生たちがいつも2、3人以上のグループで歩いていて、明るく、生き生きしていること。共同作業を通じて育まれるものがある。農学を武器に地域活性、地域創成に寄与する人材を育てたい」と力を込めた。

農学系学部を新設した主な大学 平成25年度以降では、吉備国際大(25年度)▷龍谷大(27年度)▷新潟食料農業大(30年度)▷高崎健康福祉大(令和元年度)▷摂南大(2年度)。今後の開設を計画しているのは、順天堂大(8年度)▷東都大(9年度)▷京都女子大(同)▷広島修道大(同)▷中央大(同)▷清泉女学院大(同)▷和洋女子大(10年度)。

~記者の独り言~ 週刊少年サンデー(小学館)で平成23年から連載が始まり数々の賞を受賞した荒川弘の漫画「銀の匙 Silver Spoon」を思い出した。北海道の農業高校を舞台とした学園漫画で、主人公の高校生たちが家畜や農作物を共同作業で育てながら、命の意味を考え、自分を見つめ、成長していく物語だ。自分自身、そうした学び方をしてみたいとさえ思った。大学農学部の学びも、学生たちにすてきな物語を与えてくれるのではないか。(石毛紀行)

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