雪化粧した富士山を撮影しようとインバウンド(訪日客)が山梨県に殺到している。観光需要を取り込むために地元自治体などが新たな撮影スポットを続々と開設して盛り上るが、路上、踏切内といった危険な場所で撮影する観光公害(オーバーツーリズム)問題も深刻化しており、警備強化のため予算を増やす自治体も出てきた。
小さな広場を再生
「富士山と山中湖が一緒に撮影でき、雪が積もった南アルプスの山々もきれいに見えている」。日本人の友人に連れられてきたというフランス人観光客の女性は、山中湖村が11月にオープンした「山中湖明神山パノラマ台」からの景色を喜ぶ。
以前はクルマ数台を止めるだけの小さな広場で、絶景スポットとして知られていた。インバウンドの受け皿とするために駐車場とトイレを整備し、全長約60メートルのデッキを設置して展望スポットとして再生させた。同村の担当者は「レンタカーを使ったアジア系の観光客も多い」と説明し、上々の滑り出しと評価する。
鳴沢村は10月、「道の駅なるさわ」隣接の「活き活き広場」に大型の展望デッキを設置した。高さ約6メートルの2段式で、遮るものがない富士山の絶景を撮影できる。まだ利用者は多くないが、同村の担当者は「道路案内や道の駅にポスターを設置するなどして新たな観光スポットにしていきたい」と話す。
忍野村の忍者をテーマにした施設「忍野しのびの里」は、富士山を背景に日本庭園、朱色の鳥居が連なる「絶景千本鳥居」を今月13日にオープン。外国人に人気の忍者や鳥居と富士山をセットにしてPRする。
富士吉田は補正予算で対応
その一方、自治体、地元が想定していない場所が外国人の〝映えスポット〟になり、問題が起きている。
全国的に有名になった富士河口湖町のコンビニエンスストアの上に富士山が乗っているような写真が撮れるとして知られる「コンビニ富士山」では一時、同町が目隠し幕を設置する異例の事態となった。
富士吉田市ではレトロな商店街の先に富士山が見える風景がSNSやインターネット上で話題になった「本町通り」で車道の真ん中で富士山をバックにポーズをとるなどの行為が後を絶たず、市が警備員を配置して対応にあたっている。
新たなトラブルとして、市内にある富士急行線の踏切内や線路内に入って富士山に向けて延びる線路を撮影する外国人観光客が増えてきた。市内のこうした観光公害への対応で市は12月市議会で補正予算に1900万円を計上し、警備誘導員を増員する。当初は踏切や線路に特化した警備誘導員配置は想定していなかったが、堀内茂市長は「鉄道会社とともに検討しなくてはならない」と新たな観光公害に頭を悩ます状況だ。(平尾孝)