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飛ばないバットが「私学の壁」を崩す追い風へ 夏の甲子園で苦戦続く公立勢、逆襲なるか

産経ニュース 2024年7月24日 11時0分

高校野球で夏の甲子園大会出場を懸けた地方大会が全国各地で繰り広げられている。昨夏の大会は史上初めて、ベスト16すべてを私立校勢が占めるなど、最近は公立校の苦戦が続いている。少子化の影響などで部員不足の傾向もあり、都市部では代表になるのも至難の業で、大阪は1990年の渋谷が最後の公立。公立校が最後に全国制覇した2007年の佐賀北、決勝に進んだ18年の金足農(秋田)の戦いぶりなどから今後、公立勢の逆襲はあるのか探ってみた。

ほぼ公立校からしか選ばれない「21世紀枠」がある選抜大会に比べ、各地方大会で優勝しなくては甲子園に出られない選手権大会は、公立校にとって厳しい戦いだ。現在は私学の大阪桐蔭、履正社が2強を形成している大阪は1990年、後に近鉄などで活躍した中村紀洋が2年生で4番を務めた渋谷以降、すべて代表は私立。2017年に大冠が決勝に進んだが、大阪桐蔭に8-10で敗れた。

神奈川も1990年の横浜商以降は私立のみ。東西2地区に分かれる東京を見ると、東東京は2003年に雪谷が出ているが、西東京に至っては1980年に「都立の星」として注目を集めた国立が最後。日大三、東海大菅生など私立の強豪校の壁が厚い。

かつて公立の強豪は数多く存在した。県岐阜商、松山商(愛媛)、広島商などは全国制覇を経験。箕島(和歌山)は公立で唯一、甲子園春夏連覇を達成。池田(徳島)も県立でありながら、夏春連覇を果たした。最強を誇った桑田真澄(元巨人)、清原和博(元オリックス)のKKコンビを擁したPL学園(大阪)は甲子園で3敗しかしていないが、そのうち2敗は取手二(茨城)、伊野商(高知)と公立(もう1敗は東京の私立、岩倉)だった。

箕島は石井毅(元西武)-嶋田宗彦(元阪神)の黄金バッテリー、伊野商には剛腕、渡辺智男(元西武)、池田は金属バットを生かした「やまびこ打線」と、チームの強みを前面に押し出す力強さがあった。

佐賀弁で「すごい」という意味の「がばい旋風」を巻き起こした2007年夏優勝の佐賀北は昨季、プロ野球で日本一になった阪神タイガースと同じく、四死球の多さが武器だった。7試合で選んだ48個は現在も大会記録だ。

広陵(広島)との決勝も4点を追う八回1死から、連打と四球で満塁とすると、続く打者も四球を選んで押し出し。3番の副島浩史は動揺する相手エース、野村祐輔(現広島)の変化球をたたき、左翼席に運ぶ逆転の満塁本塁打。甲子園のスタンドは公立への「判官びいき」からか、佐賀北を後押しする形となり、広陵ナインには気の毒だった。

18年夏に決勝に進んだ金足農は吉田輝星(現オリックス)という大エースを擁したことが強みだったが、もうひとつ、鍛えられた小技が目立った。象徴的だったのは準々決勝の近江(滋賀)戦だった。1点を追う九回に見せた2ランスクイズは球史に残る名場面だ。満塁から、三塁前へ転がしてまず1点。三塁手が一塁へ送球すると、その隙をついて二塁走者も生還した。誰もがまさかと思うプレーを土壇場で出せるほど、バントと走力には磨きをかけていたということだ。

ある私立の甲子園常連校を率いる監督は「自分たちの特徴や長所を生かそうと、しっかり練習してくる公立は手ごわい」と打ち明ける。限られた練習時間を有効に使い、自らのスタイルを崩されないことが、公立が強さを発揮する要因といえそうだ。

今春の選抜大会から低反発の「飛ばないバット」が採用され、私立勢の圧倒的な打撃力にさらされていた公立勢には追い風だ。兵庫は今春の県大会で上位3位までを社、明石商、須磨翔風の公立校が占めた。徳島はこれまで、私立校が夏の代表になったことはない。大阪桐蔭や報徳学園など強豪私立の戦いぶりが楽しみな一方、公立校が奮闘する姿も見てみたい。

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