車いすテニス界の「レジェンド(伝説)」が貫禄を示した。シングルスで通算28度の四大大会優勝や3度のパラリンピック制覇を成し遂げ、昨年1月に現役を引退した40歳の国枝慎吾さんが8日、東京・有明コロシアムで18歳の小田凱人(東海理化)と6点先取制のエキシビションで対戦。今年のパリ・パラを制した世界ランキング1位を6-3で破ってみせた。
国枝さんと小田との対戦は、能登半島地震復興支援を目的としたイベント「ドリームテニスARIAKE」の1カード。ツアーではまだ実現していない錦織圭(日清食品)-ダニエル太郎(エイブル)の8ゲームマッチ、若手有望株対決となった坂本怜(IMG)-望月慎太郎(木下グループ)の6ゲームマッチに続いて行われ、約1万人が見守った。ただ、プロが普段用いないアンダーサーブを使うなど「ショー」の要素も強かった先の2カードとは異なり、車いすテニスの新旧世界1位による対決は真剣そのものだった。
真剣そのもの
第1ゲームを奪った国枝さんは、続く相手のサービスゲームをすぐさまブレーク。小田の繰り出す鋭いサーブに面食らう場面もあったが、巧みなチェアワークで主導権を握り、5-1とリードした。ここから徐々に動きのよくなった小田に2ゲームを返されたが、6-3で快勝した。
現在、米国を拠点に車いすテニスのコーチを務める国枝さんは「勝ちにいかないと〝処刑〟されると思った」と、試合に向け2カ月間みっちりと調整した成果を見せつけ、ガッツポーズ。この2カ月間は引退した身にはハードだったようで、「体が耐えられなくて、腰が痛くなり、(練習量を)ちょっとずつ減らしていった」と苦笑いで振り返った。
2人は2022年10月、同じ会場で行われた楽天ジャパン・オープンの車いすの部決勝で対戦。新鋭の小田が第一人者に食らいつき、2時間半近い激闘に持ち込んだが、最後は国枝さんがフルセットで競り勝った。
「あの試合をきっかけに応援してくれる人が多くいる。その(同じ顔合わせの)試合が数年後に実現したことが何よりうれしい。もちろん勝ちたかったが、やったことに意味がある」と小田。国枝さんも「いい試合をしようと思ってもできないので、勝ちにいった」と相手の力量を評価しているからこそ、入念な準備を重ねたと明かした。
〝再戦〟を要求
2人の対戦はこれで最後…と思われたが、コートインタビューに臨んだ小田に国枝さんから「物言い」がついた。「僕はこれからテニス界をもっと盛り上げ、ここより大きい会場でテニスコートをつくって試合をしたい」と宣言した18歳に「まずは来年、俺を倒してからだ」と〝再戦〟を要求。夢の対決は1年後、再び見ることができそうだ。(奥村信哉)