サッカーJ1の浦和に新加入する選手たちの「郷土愛」が、埼玉県のサッカー界を盛り上げてくれそうだ。ブラジル出身のマテウスサビオとともに期待を集める金子拓郎、松本泰志、長倉幹樹の実績ある3選手はいずれも埼玉県出身。浦和は幼少期から親近感を抱くクラブで、1月7日に行われた会見では、地元でプレーする喜びを表現した。常に意識してきたクラブ、故郷への思いが大きなモチベーションになるのは間違いない。
「オファーはうれしかった」
ベルギー1部コルトレイクから加入する27歳のMF金子は小川町出身で、札幌の主力だった2023年途中に欧州へ旅立った。松本は東松山市出身で26歳のMFだ。埼玉県の全国的強豪高校である昌平OBで、昨季は最終節までJ1優勝を争った広島の主力を担った。
25歳のFW長倉は旧・浦和市(現・さいたま市)出身で浦和の下部組織育ち。昨季に新潟でJ1出場30試合、5得点と飛躍のきっかけをつかんだ。
7日にホームの埼玉スタジアムで行われた会見で、金子は「地元のビッグクラブからのオファーはうれしかった」、松本は「地元のクラブで活躍するのが夢だった」、長倉は「浦和でプレーしたかった」と語った。報酬や環境を含めた条件が最大の判断材料だったのは当然としても、埼玉県のシンボル的存在である浦和に対する思いも背中を押したようだ。
会見に同席した浦和の強化責任者である堀之内聖スポーツダイレクター(SD)は「最も大事なのは能力で、同じくらいに大切なのは人間性、浦和でプレーしたいという熱い思いがあるかどうか。埼玉県出身を前提に選手を獲得することはない」と出自と補強方針との関連性を否定した上で「子供のころから浦和をみていたという言葉を聞けたのはうれしい」とほほ笑んだ。
色あせつつある栄光
埼玉県は静岡県などとともに伝統的にサッカーが盛んな地域として知られてきた。1952~81年度に、全国高校サッカー選手権で代表校が12度の優勝を飾ってもいる。ただ、そうした実績は遠い過去となりつつあり、今年度も81年度の武南以来となる王座奪回はならなかった。昨季にJ3だった大宮がJ2再昇格を果たしたとはいえ、J1在籍歴もあるのだから手放しでは喜べない。
閉塞感を感じさせる最大の原因は、浦和の不振にあるといっていい。近年は散発的にアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)といったカップ戦で存在感を示すものの、総合力が問われる長丁場のJ1では優勝争いに絡めていない。終盤まで残留争いに巻き込まれるシーズンもあって昨季は13位に終わり、浦和の田口誠代表は「誰もが納得し得ない」と無念さを隠さなかった。
チームが低空飛行を続けても、ホームゲームには71万2852人の観客が駆け付けた。2位だったFC東京の63万1273人に水をあけてのJ1最多でサポーターの期待は高い。埼玉県出身の新加入選手が故郷への思いを力に変えて浦和の復活に貢献できれば、埼玉県のサッカー界全体を勢いづけてくれそうだ。(奥山次郎)