10月24日に開かれたプロ野球ドラフト会議で、最速154キロの即戦力ナンバーワン左腕として前評判が高かった関大の金丸夢斗(21)は4球団の競合の末、中日が交渉権を獲得した。チームメートとなる選手で気になる存在に挙げたのが、今季のセ・リーグ最優秀防御率のタイトルを獲得した同学年の高橋宏斗。目標は1年目から「2桁勝利で新人王」を成し遂げ、「ヒロト×ユメト」の左右の二枚看板でファンに「夢」を与えることだ。
全国区の高橋宏に刺激
100人を超える報道陣が集まった指名後の会見で、金丸の口から2人の投手の名前が出た。ひとりは目標とする投手の米大リーグ・カブスの今永昇太。「スピード以上のキレがあって空振りが取れる。参考にしているし、尊敬している」と話す。そして、もうひとりが高橋宏だ。「(2023年のワールド・ベースボール・クラシックで)世界一に貢献した投手。どうしたら、あんなに速い球を投げられるのか聞いてみたい」と語った。
金丸も高橋宏も新型コロナウイルスの影響で高校3年のときに甲子園大会が中止になった世代。ただ、高橋宏は名門・中京大中京(愛知)のエースとして全国に名が知られ、夏に行われた甲子園交流試合のマウンドにも立った。決して強豪校ではない神港橘(兵庫)の金丸は「いい刺激をもらっていた。高校のときは届かない感じだったが、いつかは同じ舞台と思っていた」と意識していた。関大での4年間で日本代表の「侍ジャパン」にプロ選手に交じって招集されるほどに成長した左腕。「一緒にできるのは本当にうれしい」。中日では同学年との〝共闘〟で投手王国をつくり上げる。
甲子園の投手と遜色なし
力強くプロでの目標を語る金丸の姿を見守っていたのが父親の雄一さん(48)、母親の淳子さん(47)だ。雄一さんは11年夏から今夏まで、春夏の甲子園大会で審判を務めてきた。そんな父とともに甲子園の舞台に立つのが金丸の夢だった。小学1年で野球を始めたものの、体が小さく、高校入学時は160センチに届かず、体重も50キロほどだったという。
それでも「負けず嫌いな性格」(雄一さん)の金丸は夢をかなえるため、それまで量が足りなかった食に対しての意識を改めると、体がみるみる大きくなった。コロナ禍で全体練習ができなくても、地道に個人で練習を怠らなかったのもプラスになった。
甲子園大会の審判経験者として、雄一さんが息子の成長を実感する出来事があった。高校3年夏の兵庫県独自大会の前、神港橘の練習試合で審判を務めた。そのときに見た金丸の投球に「球速や球の力、球質で甲子園で投げる投手と遜色がない」と感じ、それを本人に話した。「自分がどれぐらいのレベルか知りたがっていた。本人には励みになったようです」。コロナ禍で、父との甲子園の夢はかなわなかったが、大学で成長してプロ入りするという夢が、ここから始まった。
夢に向かって努力
中日は今オフ、左腕の小笠原慎之介がポスティングシステムを利用してメジャー移籍を目指す。金丸にはその穴を埋める活躍が期待される。金丸は「即戦力として期待されている。穴を埋められるように頑張りたい」と話す。
「夢斗」という名前は両親がつけた。雄一さんは「夢に向かって努力するように。斗は星座から取っています。星になるぐらい大きな夢を持ってほしい」と説明する。プロ入りという夢はかなえた。次はファン、そして支えてくれた家族や関係者の夢をかなえる恩返しに力を注ぐ。(鮫島敬三)