ことしの野球殿堂入りが発表され、競技者表彰のプレーヤー表彰で日米通算4367安打を放ったイチローさん(51)=本名・鈴木一朗=が選出された。21日(日本時間22日)に発表される米国野球殿堂入りでも日本選手初の選出が確実視されているイチローさんは、通知式のスピーチの中で「時代が変わっていくこともある。でも、やっぱり変えてはいけないものというものもある」などと話した。発言の根底には、データへの偏重が進み、選手個々の感性が失われつつある現代野球への危機感が表れている。
日米で進むデータ重視
東京・文京区の野球殿堂博物館で16日に行われた通知式で、全国各地の高校生への野球指導に触れながら「彼らとの出会いを通じ、僕の大いなる目標となって、モチベーションにもなっている」と語ったイチローさん。スピーチでは、続けて自らの思いを訴えた。
「さまざまな要因から今の野球が変わっていっている。そういう意味でも、子供たちが向き合う野球は純粋なものであってほしい。時代が変わっていくこともある。でも、やっぱり変えてはいけないものというものもあると思う。そこを僕は強く意識して、これから子供たちと接していきたい」
イチローさんが指摘するように、野球を取り巻く環境は、最近10年で大きな「変化」が生まれている。
米大リーグ機構(MLB)では、2010年代半ばごろから「スタットキャスト」と呼ばれる高精度のデータ解析システムを使い打球の速度や飛距離などを瞬時に計測。各選手のデータは公表され、リアルタイムでチームや放送局などにも共有されるようになった。選手がベンチでタブレットなどの電子機器を見ながら分析する姿は、メジャーでは日常的な光景となっている。
日本のプロ野球でも「トラックマン」と呼ばれる弾道測定機器が各球団で導入されており、野球界におけるデータ偏重の傾向は日米共通ともいえる。
6年前の引退会見でも危機感
6年前に行われたイチローさんの引退会見でも、データ偏重の風潮に危機感を募らせる一幕があった。
「日本の野球がアメリカの野球に追従する必要なんて全くなくて、日本の野球は頭を使う面白い野球であってほしい」
データ偏重が蔓延する野球界で、野球の「面白さ」を引き継ぐためにすべきことは何か-。今回の野球殿堂入りにあたり、報道陣に対して文書で質問に応じたイチローさんは、次のように回答している。
「長い時間をかけて築いてきたことには理由があります。一時的な利益のために大切なものを失ってほしくない。判断は慎重すぎるくらいのスタンスで」
日米で刻んだ数々の記録の原動力について、「第三者の意見ではなく、感性に基づき行動してきたことは大きな要因の一つ」と答えたイチローさん。現役生活の中で研ぎ澄ませてきたプロ野球選手としての「感性」に、イチローさんの矜持(きょうじ)が凝縮されている。(浅野英介)