Infoseek 楽天

幼少期スパルタが最重量級「金」の礎 レスリング女子・鏡優翔の信条は「かわいく、強く」

産経ニュース 2024年9月1日 11時0分

8月11日に閉幕したパリ五輪の最終日、日本選手団の目標に設定されていた20個目に到達する金メダルを獲得したのがレスリング女子76キロ級の鏡優翔(ゆうか)=サントリー=だ。スタンドには、ひときわ目立つ格好で大きな声援を送る家族の姿があった。幼少期に厳しく育て上げた両親と、その教育をともに受けた兄。日本女子レスリングの歴史を変える金メダリストとなった女子レスラーには、家族と築いてきた泣き笑いのエピソードがあった。

家族が大きな存在感

メダルラッシュに沸いた日本勢の大トリを、鏡が見事に務め上げ、初出場で五輪制覇を果たした。エッフェル塔近くのシャンドマルス・アリーナでの競技最終日。これまで隆盛を誇ってきた日本女子レスリングで唯一なかった最重量級の金メダルを獲得し、「ずっと、誰も成し遂げたことのないことをやろうと思っていた。それが実現できて、最高にいい気分」と満面の笑みを浮かべた。

レスリング人気の高い米国選手が決勝の相手。会場には「USA」コールも沸き上がった。それに対抗するようにこだましたのが「かわいい!」というエール。鏡が「頑張れって言われるよりも力が出る」という言葉だ。その声援の中心には、父・師博(のりひろ)さんと母・ひとみさん、兄・隼翔(はやと)さんがいた。そろって黄色のTシャツを着て、顔面には大きく「父」と「兄」と文字をペイントし、母は娘が好きなひまわりのアクセサリーを頭につけた。8000人を超える観衆の中でもひときわ大きな存在感を放っていた家族は、新チャンピオンを語るうえで欠かすことのできない存在だ。

家では生傷が絶えず…

小学生のころ、鏡きょうだいには父からほぼ毎日、特訓メニューが課せられていた。腕立て、腹筋、背筋は当たり前で、メディシンボールの投げ合いやダンベル、レスリングの組手など、学校から帰宅すると家の中に練習メニューが貼られていた。家の中はフローリングしかなく、スパーリングをすると生傷が絶えなかった。少女は遊びにいく友達を横目に「何で私たちだけ…」と思いながら帰路に就いたこともあった。

3歳上の兄とともに、厳しすぎる日々を、ときに2人で悪知恵を働かせながら乗り越えた。父の帰宅直前に水を被って汗まみれになっていたことを演出するなど、スパルタだった両親の目をかいくぐった。社会人になってその当時のことを打ち明けると、父は「よくもだましてくれたなって思ったけど、そういうずる賢さも必要ですよね」と笑うしかなかった。

手を抜くこともあったとはいえ、鏡にとってこの幼少期の家庭内トレーニングが金メダルの礎になったことは間違いない。「今となってはありがたかった。自分の目標に向かって、そういう人生を選択したんだなと思う」と感謝するばかりだ。

自分らしく、強くなる

青と白と赤のフランス国旗のトリコロールに染めたヘアスタイルや、マウスピースには「カワイイ」と書き込むなど、底抜けの明るさも注目を集めている。「いろんな強くなり方があるんじゃないかって。自分がこうやって『かわいい!』で応援されたら頑張れるとか、おしゃれしながら切り替えて練習するとか。それでも強くなれるっていうのを証明できたかな」。厳しくもユーモアたっぷりの家族に支えられながら信念を貫いてきた22歳。世界をリードする日本女子レスリングの新たな象徴になりそうだ。(大石豊佳)

この記事の関連ニュース