プロ野球は2月1日に一斉に春季キャンプに入る。各球団とも秋の優勝を目指して新陣容がスタートする中で、例年より目立つのがコーチの移籍、新入団が活発なことだ。5球団で新監督が就任したことが影響しているが、ライバル球団への移籍、プレーしたことがない球団での就任など、ひと昔前ではなかった形での指導者が誕生。育成選手の増加や3、4軍の創設によってポストが増えたことや引退後は球界に残らず、動画配信などにいそしむOBの増加による人材不足が背景になっているようだ。
投手コーチが横滑り
昨オフ、驚きのコーチ人事が続出した。日本ハムの1軍投手コーチを務めていた建山義紀がロッテの同じポストに横滑り。西口文也新監督でチームの立て直しを図る西武はヘッドコーチに元ソフトバンクの鳥越裕介、野手チーフ兼打撃コーチに巨人などでプレーした仁志敏久が就任。2人ともこれまで、西武のユニホームを着たことがないという珍しい外部招聘(しょうへい)だ。
建山コーチのロッテ移籍は、日本ハムの1軍スタッフで唯一の退団者ということで、異例ぶりが際立つ。ロッテは昨季、日本ハム戦は6勝18敗1分けと大きく負け越した上、クライマックスシリーズ(CS)ファーストステージでも敗れた。日本ハムで「要職」を務めた建山コーチの加入は苦手意識の払拭につながるのではと期待されている。
現役コーチが翌年に異なるユニホームを着るケースは、かつては情報漏洩(ろうえい)を防ぐために少なかったが、最近では珍しくなくなった。DeNAは外野守備の指導に定評がある河田雄祐コーチがヤクルトから移籍。また、ロッテで1軍打撃コーチだった村田修一が野手コーチとして、フリーエージェント(FA)権を行使して巨人に移籍して以来、14年ぶりの古巣復帰。移籍の際は確執もささやかれたが、河田コーチ同様、指導者としての能力が認められた形。藤川球児新監督が指揮を執る阪神は外部からの生え抜きの新コーチはゼロだが、オリックスから小谷野栄一、梵(そよぎ)英心両コーチが加入。阪神でのプレー経験はないが、「松坂世代」といわれる1980年度生まれは監督と同学年だ。
在籍経験のないチームでも
在籍経験のないチームでのコーチ就任は小谷野コーチらのほかにもいる。中日はソフトバンクで三冠王に輝くなど活躍した松中信彦が打撃統括コーチとして井上一樹新監督を支える。初めて西武のユニホームを着る鳥越、仁志両コーチについて、球団は就任発表時に「これまで当球団に在籍経験がなく、新たな視点や経験を有する鳥越氏、日本代表でのコーチ経験を持つ仁志氏」と期待を示した。
仁志コーチは「所属したことがない球団なので、話をもらったときはびっくりした」と話す。西口監督と鳥越、仁志両コーチは同時期に2軍監督(鳥越コーチはロッテ、仁志コーチはDeNA)を務めたことがあり、仁志コーチは「それぞれ球場では話をしていた」と「縁」を振り返った。
近年のコーチの「大シャッフル」の背景には「成り手不足」が原因という指摘がある。ひとつはコーチポストの増加、各球団とも育成選手を多く抱え、それに対応する指導者が必要になっていることが挙げられる。育成選手が50人以上いて4軍まであるソフトバンクの監督・コーチは12球団最多の37人(最少は中日、ロッテ、楽天の20人)だ。
もうひとつはオファーが来てもユニホームに袖を通さない球界OBが多くなったことだ。有名選手だったOBほど、YouTubeなどの動画配信、講演活動といった仕事で稼ぐことができる。チームの不振の責任を問われるコーチ業に距離を置くのも仕方がない。
また、科学的なトレーニングやデータ分析など、最先端の知識も必要となってきている。これらの要因でコーチができる人材は限られ、その中で指導力に定評のある人物は引く手あまたの状況になる。これがコーチ異動の活況につながっているといえるだろう。
監督の名参謀になれるか
ただ、有能なコーチの招聘がチームの戦力アップに必ずつながるかといえば、そうではない。結果が出なければ、監督とコーチに確執が生まれる。有名な事例のひとつが2000年の阪神における「野村克也監督VS伊原春樹コーチ」だ。
前年まで西武に在籍した伊原コーチは最下位に沈んだ阪神の機動力向上を期待された。キャンプ中やシーズン序盤は蜜月だったが、5月の試合での盗塁死に野村監督が「伊原は勝手にサインを出す」とコメントしたことをきっかけに関係が悪化。チームは最下位に沈み、シーズン終了とともに伊原コーチは退団。まさに「けんか別れ」だった。
一方で00年代に中日で黄金時代を築いた「落合博満監督-森繁和コーチ」、闘将と名参謀という関係だった「星野仙一監督-島野育夫コーチ」といった名コンビも有名だ。今季、新天地で指導を始めるコーチたち。監督をいかにサポートするか注目したい。