今夏のパリ五輪以降、メディアに引っ張りだこになっている柔道の阿部一二三、詩(ともにパーク24)のきょうだいが10日に横浜市で、小学6年生向けの大会「ABE CUP」を開催した。昨年に続いて2回目の開催で、多忙を極める中、こだわりを持って主催した冠大会。世界の頂点を極めてからも感じ続けている柔道の楽しさを伝え、競技人口の減少傾向にも歯止めをかけるべく、熱い思いが込められている。
「楽しいが一番」
阿部きょうだいはパリ五輪を終えてから、テレビのバラエティー番組だけでなく、ファッション関連のイベントなどにも多数出演し、メディアで姿を見ない日がないといっても過言ではないほど。そんな中でも、きょうだいの名を冠したイベントは特別だった。
300人を超える小学6年生が集まり、男子5階級、女子3階級で開かれた「ABE CUP」。きょうだいそろって柔道着姿で五輪のメダルを首にかけて子供たちの前に立つと、兄の一二三は「今でも柔道が楽しいし、大好き。勝つことも大切だけど、楽しかったなと思ってもらえれば、僕はすごい満足です」と熱く語りかけた。妹の詩も「私はいつまでも柔道が大好き。みんなも大好きなまま続けて、強くなっていってほしい」と話した。
日本柔道の底上げへ
大会は昨年、地元に近い兵庫県姫路市で第1回が開催された。2021年東京五輪できょうだい同日金メダルの偉業を果たして以降、注目度が増すにつれ、第一人者として日本柔道の現状に対する危機感も抱くようになり、それを形にした大会だった。
全柔連の会員登録者数は、04年は20万人を超えていたが、23年には12万人台と減少傾向が続く。今夏の五輪の舞台だった〝柔道大国〟フランスとは約40万人もの差。一二三は「競技人口も減っている中、柔道界をもっと盛り上げていければ」。この冠大会はその証しでもある。
ライバル出現も期待
大会終了後には、一人一人にサイン色紙を手渡した。詩は「試合中に泣いちゃってる子とか、負けてすごく悔しがっている子とか、すごく心打たれた。でも、負けてもすべて終わりじゃないので、何かをつなげるのは自分次第。みんなの踏み出す一歩になってくれたら」と話し、パリ五輪の女子52キロ級で不覚の2回戦敗退を喫した自身の姿とも重ね合わせた。
来年以降、「ABE CUP」は海外での開催プランも温めているという。子供たちの前で28年ロサンゼルス五輪での3連覇を誓った一二三は「ABE CUPで優勝して、世界選手権やオリンピックで優勝したとか、そういう一歩になる大会になれば」とも話し、未来の日本柔道を担う選手が現れることを願う。自身の最大の目標である五輪4連覇が懸かる32年ブリスベン五輪のとき、この日の出場者は20歳になる。代表を争う存在がいたかもしれず「可能性はありますね。そうなったらうれしい」と笑顔をみせていた。(大石豊佳)