高校野球の秋季近畿大会で優勝し、来春の選抜大会への3年ぶりの出場が確実となっている東洋大姫路(兵庫)。エースの阪下漣(れん)は最速147キロのストレートと抜群のコントロールを誇るプロ注目の右腕だ。本人の自慢は今季、米大リーグのワールドシリーズを制したドジャースの大谷翔平と誕生日が同じ7月5日ということ。「投手として近づきたい」とスーパースターへの憧れを語る。
履正社前監督の英才教育
クレバーな投手だ。本格派にありがちな、三振を取りにいく投球でなく「打たせて守りからチームのリズムをつくる」ことをモットーとしている。制球よく、ストライクを先行させるため、打者は早打ちとなり、近畿大会準々決勝の大院大高(大阪)戦では90球完封の「マダックス」(100球未満の完封勝利)を達成。近畿代表として臨んだ明治神宮大会1回戦の聖光学院(福島)戦では、雨が降り続ける悪条件の中、44球で5回無失点。チームのコールド勝ちに貢献した。
履正社(大阪)を率いて2019年夏の甲子園を制し、22年春から母校の東洋大姫路で指揮を執る岡田龍生監督から英才教育を受けている。「ヒットは仕方ない。先頭打者の四死球はリズムが崩れる」「立ち上がりの一回、グラウンド整備の直後の六回は丁寧に投げる」などの教えを受けている。履正社時代に今秋のドラフト会議でDeNAから1位指名された竹田祐(三菱重工West)、寺島成輝(元ヤクルト)ら指導した逸材たちと「同じ指導をしている」と指揮官。「阪下は意識のレベルが高いので、ある程度は放っておいていい」と信頼している。
プロ野球選手という夢を追いかける。出身は兵庫・西宮市。中学時代の最速は129キロだったが、高校に進学すると体を大きくするため、食事の量を多くした。そのかいがあって現在は181センチ、87キロ。自分の球の軌道を常にイメージすることが、制球力アップにもつながっている。
「プロに行くだけでは意味はない」
ただ「プロに行くだけでは意味はない」と言い切る。自らにハードルを課している。「最速で150キロを出さないとプロでは通用しない。出せなかったときは社会人、大学に進んで腕を磨く」と話す。「あと3キロ」の上積み。やみくもに速いだけではない。自分でコントロールできる生きたボールでの大台を追い求めていく。東洋大姫路出身の投手は甲斐野央(西武)、原樹理(ヤクルト)は東洋大、松葉貴大(中日)は大体大、長谷川滋利(元オリックス)は立命大を経てドラフト1位でプロ入りしている。クレバーな阪下は賢明な判断をするだろう。
明治神宮大会は準決勝の横浜(神奈川)戦に先発し、1-1でタイブレークに突入した末、十一回に2点を失い、1-3で敗れた。球数は150といつもよりかさんだ。四死球を4つ出したこともあるが「攻めた結果。神宮でいい経験ができた」と全国レベルに触れたことを糧とした。そして「センバツでリベンジしたい」と前を向いた。
阪下が「唯一の自慢」と話すのが、誕生日が大谷翔平と同じ7月5日ということ。打撃はあまり得意ではないため「バッティングは無理」と苦笑いするが「投手としては近づきたい。コントロールでは日本一の投手になりたい」と目標を語る。来春から始まる最終学年の戦い。自分のため、チームのために何を磨けばいいかは分かっている。(鮫島敬三)