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難航極めた男子パリ五輪代表招集が突き付ける日本サッカーと五輪の向き合い方

産経ニュース 2024年7月18日 10時0分

難航を極めたパリ五輪サッカー男子日本代表の選手招集は、日本サッカー界における五輪の位置付けが転換期を迎えていることを印象付けた。所属クラブの派遣拒否などによって24歳以上のオーバーエージ(OA)枠は使えず、五輪世代となる23歳以下の実力者も不参戦が続出。欧州で活躍する日本人の増加と若年化はさらに進むとみられ、日本サッカー界は五輪との向き合い方を再考する必要がありそうだ。

五輪は国際サッカー連盟が定める国際試合期間外に行われるため、各国・地域協会は所属クラブの意向を無視して選手招集を行うことができない。選手に移籍の可能性があれば、新たな所属クラブの了承も取り付ける必要がある。日本サッカー協会はOA枠活用を望んだ五輪代表・大岩剛監督の意向を受けてクラブ側と交渉を続けたが、最終的には招集断念に追い込まれた。

23歳以下の選手も不参戦が相次いだ。象徴的な存在は、A代表の主力でスペイン1部でプレーする久保建英(レアル・ソシエダード)。1~2月のアジア・カップで全5試合にフル出場した鈴木彩艶(シントトロイデン)や6月のワールドカップ(W杯)アジア2次予選に招集された鈴木唯人(ブレンビー)、国内組では移籍の可能性がある松木玖生(FC東京)らも招集できなかった。

国・地域別の世界一決定戦はあくまでW杯。五輪は原則23歳以下による年代別の大会に過ぎず、特にサッカーの本場である欧州では、日本ほど五輪は重視されていない。所属クラブが選手に万全の状態で新シーズンに臨んでもらいたいと考えるのは当然で、必要な選手であればあるほど、故障リスクも抱える五輪への派遣に難色を示しがちだ。

3日のパリ五輪代表発表会見で、日本協会の山本昌邦ナショナルチームダイレクターは「現場の希望に沿ってクラブと調整を進めたが、OAに限らず久保や鈴木唯、鈴木彩の招集もかなわなかった。クラブにとってとてつもなく大きな存在で、必要とされている」と述べた。欧州の所属クラブから快く送り出されるのはさみしくもあり、派遣拒否は選手が高く評価されている証といえる。

日本サッカー界にとって五輪は特別な存在だ。長く金字塔だったのは、1968年メキシコ五輪の銅メダル獲得。W杯に初出場した98年フランス大会に先駆けて世界に挑んだ96年アトランタ五輪では、王国ブラジルを破る番狂わせを演じ、飛躍の起爆剤になった。注目を集める五輪での好成績が長期的な代表強化へつながる競技普及に貢献する事情も見逃せないが、近年の日本と日本人選手の成長は五輪を飛び越えつつある。

フランスは今回、OA枠でのメンバー入りが期待されたW杯得点王のエムバペ(レアル・マドリード)を招集せず。23歳以下でも欧州選手権参加組は選外となった。開催国ですら自由にベストメンバーを組めないのが五輪という大会。アトランタから8大会連続出場中の日本も、強豪国ならではの悩みを本格的に抱えるようになったということかもしれない。(運動部 奥山次郎)

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