和歌山市の漁港で令和5年4月、岸田文雄前首相が演説する直前に爆発物を投げ込んだとして、殺人未遂罪などに問われた無職、木村隆二被告(25)の裁判員裁判が、和歌山地裁(福島恵子裁判長)で4日から始まる。被告側は殺意を否認する方針とみられるが、4年7月の安倍晋三元首相銃撃に続く「ローンオフェンダー(単独の攻撃者)」による要人テロ事件だけに、背景の解明などが注目される。
関係者によると、全5回の公判では殺意の有無をはじめ、爆発物の殺傷能力なども審理される見通し。被告人質問のほか、爆発物の専門家など4人の証人尋問を実施して10日には結審し、19日に判決が言い渡される。
起訴状によると、5年4月15日、和歌山市の雑賀崎(さいかざき)漁港で、衆院和歌山1区補欠選挙の応援演説に訪れていた岸田氏のそばに爆発物を投げ込み、聴衆と警察官の計2人にけがをさせたとされる。
被告は兵庫県川西市の自宅などで4年11月~5年4月、黒色火薬564グラムや爆発物2個を自作したとする爆発物取締罰則違反を含め、5つの罪で起訴されている。
捜査段階で被告は黙秘を続け、動機は明らかになっていないが、被選挙権の年齢制限や供託金の制度は憲法違反だとして4年6月に本人訴訟を起こしていた。爆発物などの自作が始まった同年11月には、1審神戸地裁が請求を棄却している。
この時期は安倍氏銃撃事件の直後で、政治と旧統一教会との関係が連日取り沙汰されていた。被告は裁判資料やツイッター(現X)で「政治家は統一教会の組織票で当選し、利益を不当に独占し、国民に損害を与え続けている」「(安倍氏の)国葬を強行した」などと批判を展開。政権への不満が募っていた可能性がある。
当時首相だった岸田氏は無事だったものの、安倍氏銃撃事件の教訓を生かせず、要人の約10メートル先まで爆発物や包丁を隠し持った被告の接近を許した選挙警護のあり方が再び問題視された。警察庁は警察側と主催者の調整が不十分だったとする検証報告書を公表した。
被告は自民党のホームページを見て遊説日程を把握したとみられる。公判では警護の目をすり抜けて襲撃に至った経緯のほか、パイプ爆弾とみられる爆発物の自作方法などが、どこまで明らかになるかも焦点となる。
事件を巡っては、被告を取り調べた検事が「かわいそうな木村さん」などと人格を否定するような発言をし、最高検が一部を「不適正」と認定したことも発覚。ただ、黙秘のため公判への大きな影響はない見通し。