Infoseek 楽天

ブルーレットの教訓どこへ 小林製薬に欠けていた問題に向き合う姿勢  経済ヨコからナナメから 

産経ニュース 2024年8月22日 7時0分

小林製薬の看板商品「ブルーレット」の工場ではかつて、青色の粉塵(ふんじん)が通路や機械に積もり、あたり一面真っ青というのが常態化していたという。前社長の小林章浩氏が話していた。花王の販売会社での修業や米国留学を経て、家業の経営に加わるようになって工場を訪れたさい、その環境に驚いて、まずは工場の衛生管理に力を入れようとしたそうだ。

摂取した人から健康被害の報告が相次いでいる「紅麹(べにこうじ)」成分サプリメントの問題。今年3月、その一報を聞いてまず思い出したのが、7年前に聞いたブルーレット工場の話だった。

取材をしていると、ほかの製薬企業の幹部らは製造工程の衛生管理に問題があるのではないかと口々に指摘した。「コンタミじゃないか」「コンタミしか考えられないでしょう」。コンタミとはコンタミネーションの略で、業界では汚染や他成分の混入を指す。皆、まずそれを疑っていた。

しかし、7月に小林製薬が公表した事実検証委員会の報告書によると、最初の健康被害の症例を把握した直後の2月、同社は製造現場に問い合わせたものの、コンタミネーションの可能性を優先的な検討対象とはせず、「十分な危機意識が向けられることがなかった」という。

その後の検証委員会の調べで、紅麹菌が一定時間乾燥されないまま放置されていたことが分かり、また、品質管理担当者が「青カビはある程度は混じることがある」と語っていたことも判明。報告書はこれらの事例を「他の成分が作用し、または混入(コンタミネーション)した可能性に関連する事実」として記録した。

健康被害の症例と、サプリメントとの因果関係はまだ明らかになっていない。ただこの間、小林製薬の品質安全管理に対する意識が低かったことや、情報開示に積極的ではない姿勢などの課題が次々と明らかになった。

創業家の前会長、小林一雅氏は7月23日、息子で前社長の章浩氏は今月8日、引責辞任した。8日には小林製薬が問題公表直後から約4カ月ぶりとなる会見を開いた。章浩氏は「私の判断のスピード、力のなさをおわび申し上げたい」と謝罪した。

新社長の山根聡氏は「正しい判断を迅速にできる経営体制にしなければならない」とした。創業家の影響が強い企業体質については「同質性に課題があった。創業家中心の会社で、良いときは一枚岩で回るが、逆になってしまうと負に回ってしまった」と反省し、今後は「忖度(そんたく)しない」と強調している。

ただ、一雅氏が自ら、月額報酬200万円の特別顧問に就くことを求め、取締役会は了承。章浩氏も健康被害を受けた人への補償担当として取締役にとどまっている。

今後、大株主でもある創業家の関与や影響をコントロールするには、社外取締役の役割が重要になってくるだろう。今回の問題では、社外取締役への報告も遅れるなどして、ガバナンスが機能していたとはいえない状態だった。企業価値研究の第一人者で、日本企業の価値向上を提言している一橋大の伊藤邦雄名誉教授も社外取締役に名を連ねており、経営の監督に、その手腕を発揮してほしい。

かつて、章浩氏は父の一雅氏を「お客さま第一で、徹底していた」と評した。家族で訪れたレストランでも、店員のサービスに問題があると「こんなことじゃお客さんが来なくなるぞ」と叱ったエピソードに、「今なら自分もその気持ちがわかる」と話していた。

今、小林製薬にこそ、お客さま、消費者に真摯(しんし)に向き合う姿勢が求められている。

この記事の関連ニュース