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コメが品薄、価格が高騰 米穀店や飲食店直撃「ここまでとは」

産経ニュース 2024年7月21日 17時41分

コメの品薄による価格高騰が続いている。猛暑による不作で流通量が不足する中、インバウンド(訪日客)回復などによる外食需要の急拡大で需給が逼迫(ひっぱく)。農林水産省が発表した6月のコメの相対取引価格(速報)は、令和5年産米の全銘柄平均で約11年ぶりの高値水準となった。コメの卸売店や飲食店は価格の引き上げを余儀なくされ、日本人の食事に欠かせないコメが手軽に手に入りづらい状況だ。

平成のコメ騒動より…

「ここまで高くなるとは驚きだ。平成のコメ騒動でもこんな急激な上がり方はなかった」

コメの販売を手掛ける吉川米穀商店(大阪市中央区)の吉川徹社長はこう嘆息する。平成のコメ騒動とは、同5年、冷夏などで国内が深刻なコメ不足に陥り、タイ米の輸入などでしのいだ一連の出来事をさす。

同社は今年に入り、スポット取引(在庫に余裕のある業者が売り出し、在庫が不足している業者が買い取る取引)を通じた仕入れ価格が1カ月当たり千円ペースで上昇。最低価格帯のコメは昨年10月時点で1俵(60キロ)1万5千~6千円程度だったが、現在は2万円台に突入している。

在庫に余裕がなく新規の飲食店との取引はやむなく断っている。価格転嫁にも踏み切るが、「(昨年と比べ)売り上げは2割増えたものの、利益率は3割減。かなり厳しい」と話す。

新型コロナウイルス禍では飲食店の営業自粛に伴い、多くの米穀店で在庫が積み上がる状況が続いた。

こうした経験から、スポット取引の割合を増やす店が増加。すべて、価格をあらかじめ決められる年間契約で仕入れていた吉川米穀商店も約2割をスポット取引に切り替えたが、その中で価格が急騰した。吉川さんは「スポット取引をさらに増やしていたら耐えられなかっただろう」と説明する。

飲食店では価格転嫁

価格上昇の背景にあるのは、猛暑による不作や外食需要の高まりで、令和5年産米の流通量が不足していることだ。日本米穀商連合会が今年4~5月に行った調査によると、85%の米穀店が「仕入れに苦労している」と回答。約8割が在庫に不安を抱え、うち3割が逼迫していた。

インバウンドに沸く大阪・ミナミですしなどを提供する居酒屋を経営する男性(30)は「5月からコメが入ってこなくなり、スーパーで調達している」と話す。コメなど原材料費が高騰する中、7月には商品への価格転嫁を決定。1貫で出していたものを2貫セットで提供するなど、値段は上げつつお得感を味わえるよう工夫を凝らす。

スーパーにも影響が出ている。平和堂は販売価格自体は据え置いているが、5キロ1500円としていた特売品を1900円に引き上げた。

8月に新米が出回るころには状況が落ち着くとの見方もあるが、大阪市の飲食店の店長は「小さな店には一刻を争う事態。需要に対し十分に流通するかどうかも怪しく、安心できない」と話している。

「取引価格」11年ぶり高水準

コメは農業協同組合が農家から集めて卸売業者に販売し、卸売業者からスーパーや飲食店などへと流通する形が主流だ。農協などと卸売業者が相対で決めた価格を農林水産省が毎月調べ、公表しているのが「相対取引価格」で、コメの価格の代表的指標とされている。

7月16日に発表された同価格(速報)によると、6月は令和5年産米の全銘柄平均で玄米60キロ当たり1万5865円。平成24年産米が1万6127円を付けた25年8月以来、約11年ぶりの高値水準となった。

さらに、一部で行われている業者同士のスポット取引の価格も高騰。吉川米穀商店の場合、1俵(60キロ)当たりの仕入れ価格が毎月千円ペースで上昇している。こうした価格上昇は、スーパーや飲食店を消費者が利用するときの価格も押し上げる。

価格上昇の背景にあるのは〝コメ不足〟だ。

政府は30年、米価を維持するため国がコメの生産量を調整する「減反政策」を廃止したが、その後も全国の主食用米の生産量の目安を提示。転作した農家へは補助金を出し、主食用米の生産量を絞る仕組みを維持して、コメの作付けは減少傾向が続いてきた。

加えて令和5年は猛暑でコメの流通量が減った。農水省によると、コメの需給の指標となる今年5月の民間在庫は145万トンで前年同期から40万トン減少。5月として12年ぶりに150万トンを切り、品薄感が強まった。

農水省による4月末時点の6年産米に関する都道府県別の意向調査では、11道県で作付面積が増加の見込みだった。その反面、25都府県は前年並み、11府県は減少傾向と回答しており、全体としては大きな増減がなく、前年並みになるとみられる。

「高騰は限定的、冷静な対応を」 近畿大農学部・増田忠義准教授

令和5年産米が高騰している理由としては、生産者が減少傾向にある中、新型コロナウイルス禍で落ち込んでいた需要が5年産米から一気に回復したことが大きい。足元の物価上昇を考えると、適正な価格に戻ったという見方もできる。

8月には新米が出てくるので価格の上昇は落ち着くとみられる。民間在庫は昨年、一昨年に比べて低水準で推移しているものの、契約による数量確保もあり、外食や小売店での販売価格への影響は限定的だろう。

平成5年の大凶作と同じような状況と捉えるのは早計で、需要はコロナ禍前の令和元年、平成30年産米の需給バランスに戻っている。これ以上の価格高騰を防ぐには焦って購入することなく、冷静な対応が求められる。

一方、コメの安定的な生産を維持することが重要だ。農地を経営手腕のある生産者に集約し、効率的な経営と技術でビジネスとして成り立つ農業を強化するとともに、都市部や中山間地域での小規模な農家が生産するコメについても、その価値に対する需要を掘り起こすことが大切となる。

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