薬が足りない-。ここ数年、何度もこのフレーズを見聞きしている。今年は夏頃からマイコプラズマ肺炎が流行し、秋には患者数が過去最多を記録するなどして、再び薬不足を強く心配する声があがる。「すでに足りていません。増産しても現場からは全く足りないという悲痛な声が届く。申し訳ない気持ちになるが、われわれ1社だけでは対応しきれない」。せき止め錠をつくる製薬会社の社員もこうこぼす。医薬品を巡る産業構造のひずみが薬不足を慢性化させている。
そもそも今に続く薬不足は、令和2年以降に露見したジェネリック医薬品(後発薬)の不祥事に端を発している。以後、10社以上が業務停止命令や改善命令を受けたことをきっかけに減産が続き、代わりに注文が殺到した他の会社も生産力が追い付いていない。4年たっても状況の改善が見られない中、目につくのは後発薬業界の、怠慢ともいえる対応の遅れだ。
日本製薬団体連合会(日薬連)によると、今年10月時点で「通常出荷」できている医薬品は8割ほど。10・7%が「限定出荷」で、7・8%が「供給停止」となっていた。限定出荷と供給停止の医薬品のうち6割以上を後発薬が占め、1954品目に上る。感染症が流行するこのシーズンに需要が高まるせき止めや解熱鎮痛剤などが含まれる。
その中でこの秋、後発薬業界の驚きの製造現場の実態が明らかになった。
日薬連によると、後発薬を扱う全172社が実施した自主点検の結果、8734品目中、43・5%に当たる3796品目で製造販売承認書と異なる製造がなされていたという。「品質や安全性に影響はない」とするが、厳しく管理されるべき医薬品の製造を巡る数字として衝撃的だ。医薬品に対する、国民の信頼を揺るがしかねない調査結果といえる。
有効性と安全性が証明されなければならない医薬品の承認過程では、成分や分量、効能、効果、用法、用量などが厳しく審査され、医薬品として適格かどうか判断される。発売後も承認時に認められた製法を守らなければならない。
日薬連は「自主回収などの対応が必要な事案の報告はなかった」とするが、たとえば今回、原薬と添加剤を一度に混合機に投入して混合しなければならないところを、添加剤と原薬を少し袋の中で混合してから投入し混合していた-などとする報告もあった。あきらかに手順が変わっている。
一方で承認書と相違がないことを前提に医師は患者に医薬品を処方し、薬剤師も説明している。後発薬業界の姿勢に批判が集まるのも当然だ。
国は医療費を抑制するため、安さが売りの後発薬の使用を促してきた。現在、その数量シェアは約8割を占める。ただ、急拡大した市場には新規参入も増え、中小規模で生産能力の限られている企業が乱立した。すると企業間の価格競争は激化、もともと低価格であるために利益は少なくなり、製造・品質管理の体制整備が追い付かない状況を生んだ。原薬や資材、エネルギー価格の高騰も後発薬メーカーの経営を圧迫し、薬不足を長引かせている。
こうした課題を解決するために、業界再編の機運が高まっている。国も議論を進め、今年公表した報告書の中で「コンソーシアムや企業統合なども考えられる」とした。今月には武田薬品工業が後発薬を扱う武田テバファーマの株式譲渡を発表。投資ファンドの傘下に入ることになった。
少子高齢化の日本で、患者の負担軽減や医療費抑制に貢献する後発薬は欠かせない存在だ。現状の緩んだ業界の体質をただすためにも、再編への動きは加速していく。