大阪市城東区の住宅街に、定員10人の「シアターカフェ」が誕生した。映画ファンの男性が一念発起、自宅1階を改装し脱サラしてオープンした。客席は土間で、その名も「土間シネマ」。上映後、映画談議を楽しんでもらおうと「カフェタイム」を設けているのが特徴だ。複数のスクリーンを持つシネマコンプレックスの全盛期に「超ミニシアター」を通じて、人がつながり合う場を目指す。
細い路地が入り組み、民家が密集する一角に土間シネマがある。外観は一般の民家と変わらず、入り口に小さく看板が立つのみ。思わず通り過ぎそうなたたずまいだ。家主の吉田直史(なおひと)さん(43)が先月初旬に開業させた。
「館内」は約40平方メートルと少し広いリビングといった雰囲気で、100インチのスクリーンがある。座席はソファやテーブルチェア。好きな場所に陣取り開始を待っていると、吉田さんの「そろそろ上映しまーす」という声を合図に、照明が落ち暗闇に包まれた。
京都府宮津市から夫婦で訪れた自営業の竹原博史さん(50)は「映画も良かったし、こういうスタイルは初めだけどリラックスできた。わざわざ来る価値がある」と喜んだ。城東区の自営業、奥野賀美(しげみ)さん(38)は「近所にこんなすてきな場所ができて最高です」と声を弾ませた。
吉田さんが開業したきっかけは2年前、妻のさらささん(29)の親族の家を継ぎ、リノベーションで1階に〝映画部屋〟を設けたことだった。
映画少年で、中学の頃は毎週映画館へ通っていたという吉田さんは「映画を見るのも大好きだけど、見た人たちとの映画トークがすごく面白かった」という。当時は上映後の入れ替えがない映画館も多く、交流の場になっていたと感じる。そんな思い出を振り返り、いつかそんな「映画館」をつくれたらと夢を膨らませていると、さらささんが後押ししてくれたという。
デザイン会社を退職し準備を始めたが、映画の配給会社との交渉や、防災上で必要な行政手続きなどすべてが手探りで「思った以上に時間がかかった」と明かす。映画部屋をほぼそのまま生かしながら「映画館」に改装。約半年をへてオープンにこぎつけた。
1日3~4回、2作品を上映。大手の映画館では上映される機会の少ないインディーズ(独立系)作品を中心に、吉田さんが選ぶ。作品を目当てにやってくる人が多く、上映後のカフェタイムをきっかけに「続きを話そう」と連れだって居酒屋などに出かけた来場者もいるという。
吉田さんは「人の温かみを感じられるこの町が好き。周辺のお店とコラボして地域一帯を盛り上げていけたら」と話し「大手にはできない企画やイベントも仕掛けていきたい」と意気込む。(北村博子)
◇
土間シネマは予約制で、料金は1500円(作品により変動あり)。上映は水~土曜のみ。飲み物やポップコーンも販売。上映スケジュールや予約は、ホームページやLINEなどのSNSで。問い合わせはメール(info.domacinema@gmail.com)。