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神様が宿る「かまど」を残しながらの台所革命 主婦説得へガスレディーの戸別訪問大作戦 「昭和100年」だヨ全品集合 大阪ガス編

産経ニュース 2024年9月6日 10時30分

来年、2025年は「昭和100年」にあたる。平成でも令和でもない。やっぱり昭和は輝いていた。そこで新企画―。昭和を彩った懐かしい品物に集まってもらった。題して『昭和100年だヨ! 全品集合』。なんだかどこかで聞いたようなフレーズ? トップバッターは「さすガッス!」のCMでおなじみの大阪ガス。張り切ってどうぞ!

ガス炊飯器登場

まずはこのポスターを見ていただこう。

昭和33年に発売された「ガス自動炊飯器」第1号。宣伝する黄色いリボンの女性は女優で歌手の楠トシエさん。NHK人形劇「ひょっこりひょうたん島」ではサンデー先生役を務めた声優さんだ。ことし御年96歳。

ガスより3年早く売り出された電気炊飯器に対抗し「電気より4割安く2割早い」がキャッチフレーズ。《安く、早く、おいしく》炊けるガス炊飯器は瞬く間に主婦たちの心をつかんだ。

「当時はまだ電力事情もよくなかったですからね。ガスは、火力では電気に負けない。でも、保温力やマイコンの制御能力などの点では、やはり電気の方が上」とちょっぴり悔しそうに語ったのが、大阪ガスで長年、開発部門のリーダーを務めた松原秀樹さん(80)。現在は関連会社で子供たちへ火の使い方や火起こしなどを教える〝火育(ひいく)〟の先生を務めている。

松原さんはいう。

「人間は火を使って焼いたり煮たり、いろんな物を食べるようになって脳に栄養がいき、知恵がついたんです」

女子社員が営業

火でお米を炊く―それが原点。日本人がガスの火でお米を炊くようになったのは、明治の終わりから大正時代にかけてのこと。それまでの主流はかまどに薪(まき)。かまどに羽釜を乗せて「はじめチョロチョロ、なかパッパ。赤子泣いてもふたとるな」。その薪に代わってガスを―というわけだ。

だが、そう簡単にはいかなかった。かまどは昔から火の神様〝荒神さん〟が宿る神聖な場所。単なる煮炊きの設備ではない。

大阪では「へっついさん」、京都では「おくどさん」と呼ばれ親しまれてきたかまどを潰してガスかまどを設置する―なんて許されることではなかったのだ。だが、ガスマンは諦めなかった。いや、ここで〝ガスレディー〟が登場する。

「主婦の説得には女性をというわけで、女子社員たちが一軒一軒、家々を訪問し、主婦の立場になってガスの利便性や安全性、すすのない清潔な暮らしの快適さを説いたんです」と松原さん。器具も開発された。薪の入れ口に差し込むようにして使う「かまど仕込み用ガス火口」。これを持って彼女たちは叫んだ。

「もうかまどを壊す必要はありません。これまで通りかまどをお使いいただけます!」

明治から大正にかけて行われたガスレディーたちの奮闘で、台所にガスを導入する家庭が増えていった。まさに〝台所革命〟である。従来のかまどが消えると「ガスかまど」や「ガス七輪」が普及していった。そして昭和33年「ガス自動炊飯器」が誕生した。

ガス火で釜炊き再現

「火育」の先生・松原さんが勧める「いま一番おいしく炊けるガス炊飯器」が『直火匠(じかびのたくみ)』。釜炊きで出るお米の「甘味」「香り」「粘り」を最大限に再現できる究極の炊飯器だ。

ところが現実は厳しい。「なかなか良さが分かってもらえない」と松原さんは寂しそう。そういえばCMも見かけない。なぜ?

「設備の問題です。炊飯器用のガス栓がついていないキッチンが増えているんです。ガスコンロは使っていただいているんですがね」

いま、ガス炊飯器を使っているのは、一度に何升も炊く飲食店。電気とは火力が違う。昔の住宅のように壁や台所にガス栓がない…。ガス炊飯器に立ちはだかる大きな問題だ。

初代ガス自動炊飯器炊飯器は便利な3機能

昭和33年に販売されたガス自動炊飯器は上下がセパレートになっており、お釜の部分を取り外せば煮炊き用のガスコンロとして使えた。さらに炊飯器を外さず、お水をいれてガスの火をつけると蒸し器にもなるという便利な調理器具だった。

ただ、そのためつまみが複数個あり、真ん中が白いつまみで自動消火装置をセットしてガスを開くコック。あとの2つが空気調整用とコンロを使うための切り替えつまみ。少々ややこしいのがたまにキズ?

ロゴマークは一般公募で

大阪ガスの「o」と「g」をデザインしたロゴマークは一般公募によって昭和33年に誕生した。応募総数2万608点。その中から、岩手県盛岡市の女性の作品が一等賞に選ばれ賞金10万円が贈られた。当時の大卒の初任給が約1万3千円。「ガス管止めの形」「ハート形」のかわいらしさ―が決め手になったという。(田所龍一)

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