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文楽と歌舞伎を担う2人が「義兄弟の絆」 竹本織太夫×尾上菊之助が対談

産経ニュース 2024年8月15日 16時0分

文楽太夫の竹本織太夫(49)と歌舞伎俳優、尾上菊之助(47)。文楽と歌舞伎は昔から兄弟のような関係といわれるが、実力と人気を兼ね備えた同世代の2人は今年、「義兄弟の絆」を結んだ。伝統芸能を担っていく2人が、その深い縁や文楽と歌舞伎について語り合った。(聞き手 亀岡典子)

織太夫 菊之助さんは20代の頃からうちの師匠(豊竹咲太夫)のところに義太夫の勉強にいらしていたのです。今年1月31日に師匠が亡くなり、その後、師匠をしのんで献杯しましょうということになり、そこからですね。

菊之助 咲太夫師匠は大阪のお父さんのようにかわいがってくださって。

織太夫 師匠は菊之助さんを「自慢の弟子」と言っていました。菊之助さんも師匠をすごく尊敬してくださいました。

菊之助 本当にいろいろとお教えいただき、感謝しかありません。「義経千本桜」の狐忠信(きつねただのぶ)は、師匠がお得意だったこともあり、難しい狐詞(きつねことば)などを教えてくださり、巡業先まで聞きに来てくださった。残念だったのは3月の歌舞伎座で初めて勤めた「寺子屋」の松王丸は、師匠に教えていただきたいという願いがかなわなかったことです。

玉手と俊寛

菊之助 今秋、「摂州合邦辻(せっしゅうがっぽうがつじ、合邦)」の玉手御前、「平家女護島(へいけにょごのしま)」の俊寛と、文楽から歌舞伎に移された義太夫狂言の大役を勤めさせていただくことが決まりました。7月、大阪松竹座に出演していたときは連日、会ってお役のお話をさせていただきましたね。義太夫狂言を勤める上で文楽を学ぶのは原点を知ることだと思っています。

織太夫 「合邦」は、師匠のお父さまの(八代目)竹本綱太夫家にとっても大切な演目。江戸時代、二代目綱太夫は、自分が語る際に4カ所詞章を変えたといわれています。変更したものが歌舞伎に伝わっていることを今回、知りました。

くしくも今年は二代目綱太夫の二百二十回忌。菊之助さんが、師匠の亡くなった年に師匠や八代目綱太夫が大事にしていた「合邦」を勤められるのもご縁。私も八代目の五十回忌追善で織太夫を襲名した際の披露演目が「合邦」でした。

菊之助 「俊寛」も運命的なものを感じます。

織太夫 昭和5年、豊竹山城少掾(とよたけ・やましろのしょうじょう)が40年間上演されていなかった「俊寛」を復活上演しましたが、初代の大播磨(初代中村吉右衛門)が「聞かせてほしい」といって、山城少掾が大播磨の家に語りに行かれた。そのとき同行したのが弟子の八代目で、大播磨が「俊寛」を勤める際は語りに行ったと聞いています。

菊之助 それで「俊寛」が歌舞伎でも復活し、大播磨と、岳父の二代目(吉右衛門)が確立していきました。私が咲太夫師匠の亡くなられた年に勤めさせていただけることもご縁ですね。

織太夫さんが師匠から教わられたのは「俊寛は若い」ということ。よぼよぼしているのは空腹だからで、年を取っているのでも手負いでもないと。

織太夫 1月の国立文楽劇場でこの役がついたとき、師匠は病床でした。電話でかすれた声で「俊寛は37歳や。おまえより若いんや。わしと一緒で食うてへんのや」と師匠らしい言い方で教えてくださった。

大阪の情・生活

織太夫 菊之助さんとは血はつながっていませんが、咲太夫師匠の義太夫節の弟子ということで「義兄弟」。師匠から教わったことをお伝えできればと思っています。

菊之助 作者が何を言いたいのか、作品が何を訴えようとしているのかをもっと濃くつかむためには、原作の文楽に帰ることは大切ですね。

織太夫 お稽古の後、大阪の人が普段行くようなところで一緒に食事をしています。この前も劇場近くの黒門市場を2人で歩いていたら、お店の方から「今、2人の噂してたんやで」と声がかかったり。

菊之助 大阪の情や生活を肌で感じられます。それが歌舞伎を演じる上で頼りになる気がします。私は来年5月に、八代目菊五郎を襲名させていただきます。これからも古典を守り、日本に誇りを感じていただけるような舞台を勤めたいと思っています。

竹本織太夫と尾上菊之助の主な出演予定

織太夫=9月7~22日、東京・新国立劇場小劇場「文楽鑑賞教室」の「夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)・釣船三婦内(つりふねさぶうち)の段」(Cプロ)▽11月2~24日、大阪・国立文楽劇場「11月文楽公演」の「仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)」より「身売りの段」「祇園一力茶屋の段」の平右衛門。国立劇場チケットセンター(0570-07-9900)。

菊之助=9月1~25日、東京・歌舞伎座「秀山祭九月大歌舞伎」で「摂州合邦辻・合邦庵室(あんじつ)の場」玉手御前、「勧進帳」の富樫左衛門(とがしさえもん)▽10月2~26日、東京・歌舞伎座「錦秋十月大歌舞伎」の「平家女護島・俊寛」の俊寛僧都。チケットホン松竹(0570-000-489)。

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