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HIMARIさん13歳、来春ベルリン・フィルデビュー 「バイオリンがない生活なんて考えられない」

産経ニュース 2024年7月24日 6時0分

弓を持つ細い右腕がよくしなり、冗舌にメロディーを奏でる。弦を押さえる左手の指はどんな素早いパッセージも完璧な音程でとらえる。今、13歳の日本人バイオリニストが世界の注目を集めている。来春、世界最高峰のオーケストラ、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団でのデビューも決まったHIMARIさんだ。米名門音楽大のカーティス音楽院で学ぶ。「バイオリンがない生活なんて考えられない」。そう言い切るバイオリンの申し子に話を聞いた。

来年3月、ベルリン・フィルの定期演奏会にソリストとして登場する。13歳でのベルリン・フィルデビューは異例のこと。今年4月に発表されると世界中のクラシックファンを驚かせた。

「いつか共演したいと思っていました。でも、あと40年ぐらいはかかると思ってた。夢がかなっちゃった」と笑顔を見せた。7歳のころ、来日したベルリン・フィルのリハーサルを見学する機会があり、「あまりにも壮大だった」と魅了されて以来の夢だった。

指揮者、ズービン・メータのタクトで、天才バイオリニストでもあった作曲家、ヴィエニャフスキのバイオリン協奏曲第1番を弾く。超絶技巧が要所要所にちりばめられた一曲だ。「テクニックだけではなくて、音楽的な要素もある曲だからすごく良いなと思って。弾いていて楽しいんです。でも練習は地獄といっていい。手もすごく痛くなる」と言いながら両手を合わせて左右の指の長さを比べると、音程をつくる弦を押さえる左手の指は、弓を持つ右手の指より1センチ近く長かった。「伸びてるんですよ。すごくないですか」

3歳からバイオリンを始め、6歳でプロのオーケストラと共演、常に天才バイオリニストとして注目されてきた。2022年には米フィラデルフィアの名門、カーティス音楽院に最年少で合格。小学5年生の秋に渡米を決断したのは、音楽院で教えるアイダ・カヴァフィアンさんとの出会いがあったからだ。小澤征爾や武満徹とも親交のあった著名バイオリニストだ。

「最初に『もう技巧的なことは足りている』と言われました。それから曲の音楽的な解釈を勉強しています。それまではバリバリ弾いているのが好きだったけど、カーティスに行って、音楽的であることの大切さに気付きました」

例えばベートーベンのソナタを課題に、音に与えられた意味やフレーズの組み立て方を学ぶ。渡米してから、レパートリーの数も格段に増えた。それまで日本では1曲を仕上げるのに半年かけていたが、今は1曲をわずか2日間で弾けるようになるように求められることもある。音大生として、10代後半や20代のクラスメートと切磋琢磨(せっさたくま)する日々。「今、一番仲が良いのは18歳の子で、すごく上手だから刺激的。オーケストラの中で一員として弾くレッスンもあって充実しています。1人で弾くより、人と音楽を作っていくことが好きだから」

渡米に付き添ってくれている母親の支えも大きい。「1人じゃ絶対無理だった。バイオリンを始めたのも、お母さんが弾いていたからでした」と感謝する。日本に帰国すると地元の中学校で学ぶ。「勉強も好きだけど、今はバイオリンを弾くのがとっても楽しい。バイオリンをやっていないことが想像できない。やっぱり音楽家になりたい」

今年11月から12月にかけては、大阪や東京、名古屋、福岡でデビューリサイタルを開く。ベートーベンのバイオリンソナタ第7番やヴィエニャフスキの「『ファウスト』の主題による華麗なる幻想曲」、武満徹の「妖精の距離」などを披露する。コリリアーノの「レッドバイオリン・カプリス」は初めて挑戦する現代曲で、カーティスの友人が演奏しているのを聴いて、自分でも弾きたくなった。「聴いているととっても美しいんだけど、弾くと本当に難しいの」と話す様子も、どこか挑戦を楽しんでいるように見える。「プログラムは頑張って自分で考えました。始まり方が全部同じようにならないようにとか、本当に悩んだんですけど、多分、素晴らしいプログラムです」

これまで国内外で40以上のコンクールに出場してすべて1位を獲得した。ただ今後、参加する予定はない。「コンクールは自分のために受けるものだけど、コンサートは人のために弾けるものだと思ってる。コンサートを大事にしたい。客席のお客さんがうれしそうな顔をして聴いてくれるのが好きなんです」と屈託なく笑った。

大阪公演は12月1日、大阪市中央区の住友生命いずみホールで。午後2時開演。7月26日午前10時からABCぴあで優先予約受付開始。28日午前10時から各プレイガイドで一般発売。

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