古い連続ドラマの再放送を見ていると、時代の移ろいを感じ取れる。BS-TBSで10月28日まで再放送されていた「都会の森」(全11話)の制作年は平成2年。30年以上前の東京は空がとても広く感じた。
同作は新米弁護士、八橋進介(高嶋政伸)の奮闘を描いた法廷サスペンス。主題歌「壊れかけのRadio」を歌う德永英明が意味深長に登場するものの、主人公の父にして東京地検検事正、八橋宣明(佐藤慶)のらっきょうの食べ方が見どころのドラマである。
そして宣明が愛読している「毎日新聞」の題字も見どころ。題字が先代のもので、現在の青地に変わるのは翌年。あれから30年以上もたつのに古びない今のデザイン性の高さには驚く。
さて、進介らは「不倫女性教師」による夫殺し事件の真相を追う。鍵を握るのが、この教師の教え子で不登校の男子中学生だ。彼はパソコン通信で教師と心を通わせていた。そこで、進介もパソコン通信で彼にアプローチを試みる。
使っているパソコンはNECのPC-9800シリーズである。パソコンがまだ、一部愛好家のものであった時代のユーザーの日常がこのドラマには刻まれていて、何だかうれしい。
うれしいといえば進介の日本語入力方式だ。ガチガチとした入力音を聞いていると、打鍵音1つにつき、1字が黒い画面に現れる。子音と母音のキーを組み合わせることが多いローマ字入力ではなく、かな入力特有の打鍵音だ。法廷ドラマの名作の主人公が、今や職場で肩身が狭い思いをさせられているかな入力者であることがうれしくて、入力シーンを繰り返し見たが聞こえる「音」に違和感も。
かな入力(私)の場合、濁音はキーを2回打つ。例えば「だ」は、「た」キーを打ち「@」の位置にある濁点キーをたたく。ところが進介の文章に濁音が現れても、打鍵音は1つしか聞こえない。手もとを見ると一般的なキーボードだが…誰かが代わりに打っている? しかも親指シフト? NECではなく富士通?
と、書いたところで若い記者からは「意味が分かりません」と言われる昨今。都会の森で(勝手に)感じた”オアシス”の遺伝子を前にすれば、Windows95の渡来とともに消えてゆく、ガラパゴスだった日本のパソコン規格を語らしむだろう。(圭)