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四国走る最高時速差235kmの「最も遅い新幹線」 0系っぽい「顔」、車内も遊び心満載

産経ニュース 2024年10月1日 10時0分

たった1両でスピード感やスマートさは一切感じないが、団子鼻に青と白のカラーリングで見た目だけは初代新幹線の0系。そんなディーゼルカーが四国の愛媛、高知両県をまたがるJR予土線(若井-北宇和島)を含む窪川-宇和島間で走っている。その名は「鉄道ホビートレイン」。清流で知られる四万十川など自然の中を「新幹線っぽい」たった1両が走行する姿は愛嬌(あいきょう)たっぷりだ。

本物気分味わう

国鉄がJRに移行する直前の昭和62年に製造されたキハ32形の窪川方の先頭に、0系新幹線をイメージしたライトと団子鼻、スカートなどのユニットを取り付けた。平成26年3月から運行を開始。この年、予土線全線開通40周年などを記念したデビューだった。さらに当時、開業50周年を迎えた東海道新幹線にちなみ、「夢の超特急」の実現に奔走し「新幹線の生みの親」といわれる元国鉄総裁の十河(そごう)信二氏が愛媛県出身ということを知ってもらうとともに、本物の「四国新幹線」開通への期待も込められているという。

最高時速は85キロ。現在、東北新幹線で国内最高速の320キロ運転を行っており、その差は235キロ。ファンの間では「最も遅い新幹線」と親しまれている。

反対側の先頭(宇和島方)はほかの車両との連結を考慮して平面だが、それでも新幹線の顔が描かれているこだわりを見せる。

車内も楽しい。座席は基本的にはロングシートだが、運転席の後方にかつて0系で実際に使われていた転換シートが2脚設置され、「本物」の新幹線に乗っている気分が味わえる。また、数カ所にあるショーケースには、歴代の新幹線の先頭車両や四国で活躍してきたさまざまな車両の模型が展示されている。

観光列車「3兄弟」

こんな設備を持ちながら普通運賃だけで利用でき、特別料金は不要だ。現在は通常の普通列車として宇和島-窪川・江川崎・近永間で3往復運転されている。どの列車に「鉄道ホビートレイン」が使用されているかはJR四国のホームページなどで確認できる。

予土線にはほかにも観光列車が走っている。「予土線3兄弟」の長男「しまんトロッコ」は2両編成で1両がトロッコ車両を使用し、風景を直に眺められる。次男が「カッパうようよ号」。模型の製造・販売で知られる海洋堂のホビートレインとしての運行で、コンセプトは「カッパの世界」。車内にはインスタ映えするカッパの人形やフィギュアが設置されている。

3男に位置づけられる「鉄道ホビートレイン」。0系新幹線の姿に寄せてはいるが、そっくりとはいえない。車両の長さも約25メートルの0系より10メートル近く短く、車輪の幅も狭い。それでも、赤字ローカル線で「ひかり号」の顔をして車体を揺すりながら走る姿には、応援したい気持ちがわいてくる。

「鉄道ホビートレイン」は車両故障のため現在運転を休止。JR四国のホームページによると、運転再開は未定となっている。

利用促進図り赤字脱却目指す

今年で開通50周年を迎えたJR予土線。「鉄道ホビートレイン」「しまんトロッコ」などの観光列車が人気を集めているが、利用者減で赤字が続いている。

JR四国によると、令和5年度の1キロあたりの1日平均利用者数(輸送密度)は、予土線(若井-北宇和島)が150人で同社管内のワースト1位。4年度から70人も減少している。4年度の線区別収支では、100円稼ぐのにかかる経費が1718円と、こちらも最も悪い数字となっている。

輸送密度千人未満の線区を対象に、国が事業者と地元自治体の議論を仲介する「再構築協議会」は予土線については設置されていない。だが、地元では愛媛、高知両県で別々だった利用促進の協議会を一本化するなど連携を深め、利用促進策を探る取り組みを行っている。(鮫島敬三)

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