京都国立近代美術館(京都市左京区)で、生前、世界的な評価を得たインテリアデザイナー、倉俣史朗(1934~91年)の個展「倉俣史朗のデザイン-記憶のなかの小宇宙」が行われている。斬新なデザインの家具で知られる倉俣だが、家具を媒体とした人とのコミュニケーションを追求した。彼が残したメッセージは時代を超えても色あせることがない。
倉俣といえば、透明なアクリル樹脂に赤いバラの造花を閉じ込めて組み立てた椅子が有名だ。その椅子が生まれた1988(昭和63)年は、日本が最も輝いたバブル経済の絶頂期だった。
椅子の名前は「ミス・ブランチ」。米国の劇作家、テネシー・ウィリアムズの戯曲で、ビビアン・リー主演で映画化もされた「欲望という名の電車」の主人公から取られた。ふわふわと浮ついた時代のはかない愛らしさは、89年にパリのギャラリーで開かれた個展で脚光を浴びた。
倉俣は63年に銀座に建った商業ビルのインテリアデザインで注目され、独立後もガラスやアクリルなどを使ったオリジナル家具を製作した。80年代にはイタリアのデザイン運動「メンフィス」に加わって、活動の場を広げた。
没後、欧米などでの巡回展が99年に京都国立近代美術館で終了した後も、ファッションデザイナーの三宅一生ら本人を知る人たちの企画による展覧会が2011年、13年に開催されたが、今回は本人と面識のない世代の研究者や学芸員によって作られた。
研究員の宮川智美さんは「とにかく資料に当たり、作家の言葉で展覧会を組み立てました」と振り返る。
会場を巡ると、その作品の斬新さに目を奪われるに違いない。「七本針の時計」や透明な「プラスチックの家具 洋服ダンス」、緩いS字に曲がった18の引き出しを持つ「変型の家具 Side1」、乳白色の光と影が印象的な「ランプ(オバQ)」。もちろん、華やかなバブル時代を思い起こさせるガラス板、アクリル板を使ったテーブルの数々も並んでいる。
壁には「私にとって見た夢の体験も含めて記憶は無限の宇宙を構成してくれる」など、本人の言葉も記されていて、作品に与えた世界観を垣間見ることもできる。
「倉俣は、家具を媒体にメッセージを込めた。彼にとってあくまで家具は人とのコミュニケーションが前提となるものだったのだと思います」と宮川さん。確かに「ミス・ブランチ」に座り、触れれば人と話す話題ができる。そこには時代を超えた普遍性がある。
8月18日まで(月曜休館、月曜が祝日のときは開館し、翌火曜休館)。一般1700円ほか。問い合わせは京都国立近代美術館(075-761-4111)。(正木利和)