平成という時代を彩ったトレンディードラマをはじめ、映像作品で活躍してきた鈴木保奈美が最近、舞台に意欲を燃やしている。2年前に25年ぶりとなる舞台作品に出演して以来、毎年挑戦する力の入れようで、7月20、21の両日は京都劇場(京都市下京区)で、コメディー「逃奔政走(とうほんせいそう)-噓つきは政治家のはじまり?-」に主演する。なぜ今舞台なのか。熱意の背景にあるのは、芝居に対してひそかに抱き続けてきたコンプレックスなのだという。
「演技の基礎がない」という焦り
社会現象になった「東京ラブストーリー」(平成3年)や、「愛という名のもとに」(4年)など、20代はドラマ史に残る人気作のヒロインを次々と演じた。だが、華やかさの裏で膨らんでいたのが、「自分には演技の基礎がない」という焦りだったという。
オーディションを受けて10代で飛び込んだ芸能界。「芝居の勉強をしなくちゃとは思っても、何から始めたらいいのか分からなかった」と悶々(もんもん)と悩んだ時代を振り返る。
転機は子育てによる約10年の休業から復帰した後、40代から見始めた舞台だった。映像作品とは違う臨機応変な俳優の対応力、観客の生の反応-。突破口がそこにある気がした。
「グジグジ悩んでいたら、あっと言う間に人生が終わっちゃう」と、数年前に友人たちを誘って演劇サークル、自称「部活」を開始。小劇場演劇にも足を運ぶ中で平成30年に出会ったのが、今作の脚本、演出を務める冨坂友の舞台だった。
「綿密にせりふが計算されていて、ちりばめられた伏線も見事に回収される。登場人物も個性的で、私もこんな舞台に出たい!と思いました」
今回のタッグはその時以来、6年越しの念願だ。
演じるのは、知事室内に豪華なシャワールームを作ったことで炎上してしまう、人気県知事の小川すみれ。むちゃな答弁と屁理屈で火消しに奔走するが-。
俳優の個性を生かす冨坂の当て書きで、鈴木のコメディーセンスが開花する。
体感する自身の変化
令和4年に25年ぶりの舞台「セールスマンの死」に出演した際、稽古場でぶち当たったのが「発声」の壁だった。舞台経験豊かな俳優陣の中で一人だけ大きな声が出ない。「『駄目だったらあなただけマイクを付けます』と言われたこともありました」と回想する。
映像の世界ではベテランでも、舞台の上では新参者。飛び込むのに躊躇しなかったのかと問うと、「失って困るほどのものを持っているわけではないので」とあっさり。むしろ、対応力や読解力が鍛えられることで、「演じている自分を俯瞰して面白がれるようになったし、ドラマの撮影現場でもアイデアを口に出して言えるようになった」と変化を楽しむ。
クールに見えて、「欲張りは欲張りなんですよ。10代でオーディションを受けたのもそう」と鈴木。「舞台はこれからもどんどん挑戦したい。昔も今も変わらず、無謀なチャレンジャーかもしれないですね」と爽やかに笑った。
問い合わせはキョードーインフォメーション(0570-200-888)。(田中佐和)