圧倒的な色彩で語りかけてくる動物たち。「石村嘉成展~いのちの色たち~」(産経新聞社など主催)が神戸市中央区の兵庫県立美術館ギャラリーで始まり、多くのファンが訪れている。2歳で「自閉症」と診断され、30歳となった作者は動物たちの何を描こうとしているのか。同展公式スペシャルサポーターを務めるモデルでタレントの森泉さんと一緒に探ってみた。
込められた物語
会場に入るといきなり横26メートルの巨大キャンバスに描かれた動物たちが出迎えてくれる。古生代から始まる地球上の生き物の変遷を描いた「Animal History」である。
「すごい迫力。動物たちが今にも飛び出してきそう。緑のライオンやピンクのカバ。どうしてその色になったんでしょうね」と森泉さんは首をかしげた。祖母は世界的なファッションデザイナーの森英恵さん。自らもエッチング(銅版画)やデザインが得意というだけあって、いきなり動物たちの「色」に注目だ。
泉さんが石村さんの絵に興味をもったのはテレビの特集番組。「自閉症」の作家が描いた作品だから―ではなく、純粋に「かわいい絵、それでいてどこか不思議な絵を描く人だなと思ったから」という。次のコーナーは個々の動物の表情が描かれた絵。その前で立ち止まる。
「不思議ですよね。じっと動物たちの顔を見ていると、何かを話しかけてくるんです。私と対話しているような…」
実はそれこそが石村さんが描く「動物」の最大の魅力なのだ。父親の和徳さんが説明してくれた。
「嘉成は動物を描くとき、その動物のそばへ行き会話をしているんです。動物の気持ちを聞き、それを描く。だから話しかけてくるように思えるのでしょう」
絵を見ていてひとつのことに気が付いた。どの作品にも「タイトル」の下に2、3行の〝ドラマ〟が綴られているのだ。
たとえば、虚空を見つめるチンパンジーの絵=写真。見た人は「何を見ているのだろう」と思う。タイトルを見ると『呆然とするチンパンジー』とある。呆然? どうして? その下を見ると「森が火事だ! 住んでいたところが奪われて呆然とするチンパンジーどうする、どうしよう」と書かれている。
絵にはすべてこんな「物語」が込められている。サッと絵だけを見て通るのではなく、作家の思いを知ったうえで見ると、その絵はまた違った色彩を放つ。和徳さんはいう。
「今回、神戸での展覧会開催にあたり新作『幻獣森羅万象』を出展しました。1枚1枚に嘉成が作品に込めた物語と思いをあえて自筆で添えました。ぜひ、見て、読んで、感じていただきたいと思っています」
父子で追う「夢」
父子には「夢」がある。それはいつか「普通の画家」として認めてもらうこと。今はまだ「自閉症の」という冠が先につく。
「私は嘉成をパン屋さんにさせようと思っていたんです。自閉症だからという同情から買ってもらうパン屋さんではなく、『このパンがおいしいから』といって買ってもらえるパン屋さんにね。いつか嘉成もそんな画家になってほしい。そしてニューヨークで個展を開きたい」
父の夢を果たせるか…。「もっとたくさんの動物を描くよ」と本人は父を見て誓った。
両親の愛情を受け才能開花
石村嘉成さんは平成6年生まれ。2歳のときに発達障害の一つである「自閉症」と診断される。「この子をしっかりと社会に送り出したい」と母、有希子さんは心を鬼にしてあえて愛あふれる突き放しで接したという。その有希子さんは石村さんが11歳の平成17年、がんのため死去。そのあとの「療育」を父、和徳さんが引き継いだ。
「私が死んだら、この親子はどうなるの…とずっとベッドで心配していた有希子の魂が嘉成の心の中に入ったと思います。その日から嘉成はおとなしくなり、男親の私にも子育てができたんです」。石村父子は高校3年間、無遅刻無欠席。自転車で一緒に高校へ通った。
高校3年生の選択授業で「美術」を取り、恩師の寺尾いずみ先生に出会ったのが石村さんの運命を大きく変えた。「嘉成君には絵筆より彫刻刀の方が合っている」と感じた先生は「版画」を勧め、高校卒業後の作品『ミツバチと花』でフランスの「第2回新エコールドパリ浮世・絵展ドローイング部門」で優秀賞を受賞。その後、アクリル絵画も描くようになった。
新作「幻獣森羅万象」
神戸展のために描いた新作。20号正方形のキャンバスに、石村嘉成さんが想像した幻の獣9体が描かれている。作品の添え書きにはこう綴られている。
「幻獣森羅万象の世界へようこそ。まずは北の方角(作品の上)を守るのは《玄武大王》です。そして南は《幸福な大朱雀》、東は《白青龍鬼神》、西を守るのは《白虎猫》です。だから上は水の幻獣、真ん中は大地の幻獣、そして下は空の幻獣です」
頭の中にある壮大な世界が描かれているのだろう。タイトルの添え書きだけでなく、9体すべてに自筆の物語が添えられている。
「自閉症の人間は、実在する物を描くことはできますが、ない物を想像して描くことは非常に困難なんです。今回、嘉成が想像の幻獣を描いた―ということは少し成長したのかなと喜んでいます」と父、和徳さんはうれしそうに笑った。(田所龍一)
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【会期】12月8日(日)まで
【休館日】 月曜日(祝休日の場合は翌日)
【開館時間】 午前10時~午後6時(入場は閉館30分前まで)
【会場】 兵庫県立美術館ギャラリー棟3階ギャラリー(神戸市中央区脇浜海岸通1の1の1)
【観覧料】 当日券一般・大学生1500円、中高1000円、小学生800円(税込み)。
※未就学児は観覧無料。※障害者手帳を持つ本人は有料だが、手帳の提示で付き添い1人は観覧無料。
【主な入場券販売場所】 ローソンチケット(Lコード51626)、チケットぴあ(Pコード687-015)、セブンチケット(セブンコード106-755)、イープラス、アソビュー!、CNプレイガイド、楽天チケットほか
【主催】読売テレビ、産経新聞社、キョードー関西
【共催】兵庫県立美術館