歌舞伎俳優の片岡愛之助がライフワークと位置づける「永楽館歌舞伎」が11月4~11日、近畿に現存する最古の芝居小屋「出石永楽館」(兵庫県豊岡市出石町)で開催される。新型コロナウイルス禍での中止を経て昨年4年ぶりに再開、今年は愛之助ら出演者が出石中心地を人力車で巡る「お練り」も5年ぶりに行われる。愛之助は「永楽館には永楽館にしかないお客さまとの近さと熱さがある。見るより体感してもらいたい」とアピールする。
永楽館は明治34年に開館し、歌舞伎の上演や映画上映などで親しまれたが、昭和39年に閉館。平成20年に大改修して当時のレトロな面影そのままの空間が復活し、こけらおとし公演を愛之助が中心となり勤めた縁で、永楽館歌舞伎が出石の秋の風物詩になっている。
14回目となる今回、愛之助が「珍しいものを見ていただきたい」と選んだ演目が、義太夫狂言「奥州安達原・袖萩祭文」だ。
八幡太郎義家(片岡孝太郎)に滅ぼされた奥州の安倍一族の貞任(愛之助)と宗任(中村歌之助)兄弟の復讐ドラマを軸に、盲目の女芸人となった袖萩(中村壱太郎)ら政争に翻弄された家族の悲劇と情愛が描かれる。
貞任は初役で、「少し自分なりに工夫して作ってみたい」と愛之助。妻の袖萩が雪の中で三味線を弾く場面では、「お客さまも雪の中にたたずんでいる、と感じていただけるくらいたくさん雪を降らせたい。永楽館ならではの袖萩を作っていきたい」と語った。
しっとりした古典のあとは、げたでの”タップダンス”が見どころとなる舞踊「高坏」で軽やかに会場を盛り上げる。
愛之助は「お客さまとのキャッチボールの中で出来上がっていく永楽館歌舞伎は芝居の原点だと思う。僕の血となり肉となっているのは、この永楽館でのお芝居です」と熱い思いを語った。(田中佐和)