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懐かしく優しい作家と作る「なつやすみ」 和歌山県立近代美術館「河野愛 こともの、と」

産経ニュース 2024年8月9日 19時30分

和歌山県立近代美術館(和歌山市)は、メインとなる美術作家の作品と館のコレクションを取り合わせた企画展「河野愛 こともの、と」を開催している。招聘作家の作品と1万点を超える館の収蔵品から選び抜いた作品が織りなす空間は、どこか懐かしくて優しい。

作家とコレクションとで創り出す同館の展覧会シリーズ「なつやすみの美術館」の第14弾。会場に入ると、正面に真っすぐ上に伸びたネオン光が目に入る。4本の縦長のネオンサインからなる河野の作品「<I>pillar」だ。

昭和55年生まれの河野の母方の祖父母は、和歌山の白浜温泉で老舗ホテルを経営していた。一番下のネオン看板はそこで使われていたもので、数年前に閉館したとき、作家が思い出として持ち帰った。昭和初期のホテルのパンフレットや日本画家、稗田一穂がそのホテルから見た風景を描いた「晩夏」など、ホテルゆかりの品々も近くに並ぶ。

「こともの」とは異者や異物と表記される古語。河野はコロナ禍に見舞われる直前の令和元年に出産した。ウイルスという異物が世界を翻弄する中、コミュニケーションの取れない異者を育てる毎日。そこから彼女のアートが生まれた。

異物がアコヤガイに交じることで生まれる真珠を、乳児の肌のくぼみに挟んで撮影した「こともの foreign object(clock)」のインスタレーションをメインに、三木富雄の「耳」やピカソの銅版画が並ぶコーナーは女性の身体性が意識されている。

その「こともの」をプロジェクト化して、ソーシャルメディアなどで知り合った100人に真珠と撮影依頼書の入った桐箱を送り、撮影協力を仰いだ「100の母子と巡ることもの」や、自分の子供が書いた文字を画板に写してレーザーカッターで切り抜いた「letters」は、会場のライトを巧みに用い、やわらかな空間を生み出している。

また、作家の制作したネオン看板「<O>」と彼女が集めた古い瓶をもとに樹脂で制作した「loupe」は、それに寄り添う形で並ぶ彫刻家、建畠覚造の「FLOATING WAVE(連環)」とともに幻想的な風景を描き出す。

担当学芸員の青木加苗さんは「1万点を超える作品の中から自分も知らないものを選ぶという個展ではできない体験を作家がすることで、面白い化学変化が起こるんです」と話す。

確かに作家の世界観が隅々まで行き渡り、しばしひたっていたいと思わせる美的空間となっている。(正木利和)

「河野愛 こともの、と」

9月23日まで(8月12日、9月16日、23日を除く月曜と8月13日、9月17日休館)。一般520円ほか。問い合わせ073-436-8690。

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