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多様で不思議な松谷武判の世界、60年の活動を紹介 東京オペラシティアートギャラリー

産経ニュース 2024年10月25日 18時0分

東京都新宿区の東京オペラシティアートギャラリーで行われている「松谷武判(まつたに・たけさだ)」展。日本からフランスに渡って制作を続ける美術家の60年を超える活動を作品や資料、映像など約200点で紹介する、見ごたえのある展覧会だ。

「こうしてまとまってみると、自分の作品じゃないような不思議な気がする」と松谷。「時間は不思議ですね」とも語った。

松谷は1937(昭和12)年生まれ。60年代前半、戦後の関西に登場した前衛美術家集団、具体美術協会(具体)に入会。リーダー、吉原治良の「人のまねをするな」という薫陶を受け、ビニール樹脂系水性接着剤(ボンド)を膨らませて有機的なフォルムを画面上に作り出し、脚光を浴びた。

「平面に3次元的なものを作りたいと思った。それで、ボンドを使った作品を出したら、具体の人たちが面白いと言ってくれて」

美術コンクールで大賞を取ったのをきっかけに、66年に渡仏。版画の工房で働き始めた。版画制作にマンネリを感じ始めると、今度は鉛筆を手に紙をひたすら塗り続けるという作品を制作した。

「時間はたくさんありましたからね。谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』なども読みましたし、やはり具体というところにいたから、ああした作品ができたのだと思います」

82年制作の「流れ-6」、は縦149・7センチ、横10メートル50センチの紙を鉛筆で黒く塗りこめた作品で、今回の展示作品の中でも圧巻のボリュームといっていい。床に置かれた「黒円」(2005年)という作品とあわせてみると、極めて日本的な美しい空間がそこに出現している。

さらに、ボンドを使った有機的な膨らみに鉛筆の黒色を塗ってゆく作品も生み出し、パフォーマンスでも独自の個性を発揮。19年にはパリのポンピドゥー・センターで回顧展を開くなど、松谷の国際的な評価は高まる一方だ。

2年にわたる準備期間を経た本展。担当学芸員の福士理さんは「フランスにとどまり、一歩引いて自分を見つめながら挑戦し続けてきた松谷さんの内外含めて最も大きな展覧会。思っている以上に多様で不思議な力を持っている作品を味わってほしい」という。

松谷は「作ってきたものを改めて見て、自分は間違っていなかったと感じています」と語る。作品にキャプションのない展示も、松谷の美に対する潔さが表現されている。(正木利和)

12月17日まで(月曜休館、同日が祝休日のときは開館し翌火曜休館)。一般1600円ほか。問い合わせ050-5541-8600。

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