Infoseek 楽天

衝動殺人、今に通じるテーマ 吉田玉助×吉田一輔が語る「女殺油地獄」

産経ニュース 2024年7月25日 18時40分

今年は人形浄瑠璃文楽に多くの傑作を残した近松門左衛門の没後300年。数ある名作の中から、江戸時代の大坂を舞台に不良青年・与兵衛の衝動殺人を描いた「女殺油地獄(おんなころしあぶらのじごく)」が7月20日から、大阪市中央区の国立文楽劇場「夏休み文楽特別公演」で上演されている(8月12日まで)。与兵衛を遣う人形遣い、吉田玉助と、殺される人妻、お吉を遣う吉田一輔は「この作品が書かれた江戸時代より、今の方がよく通じるテーマかもしれない。息の合った2人で力を合わせ、いい舞台にしたい」と話した。

重なる2人の歩み

玉助も一輔も人形遣いの家に生まれ、それぞれ父の背中を追うように同じ人形遣いの道に進んだ。

玉助は今年、父の玉幸(没後、四代目玉助を追贈)に入門して44年がたつ。一輔は父、桐竹一暢に入門して41年だ。ともに50歳代で脂の乗ってきた年代。2人とも舞台姿に華もあり、近年は「曽根崎心中」の徳兵衛とお初などコンビを組むことも多い。

「ありがたいことに、最近は主役を遣わせていただく機会も多く、毎日が勉強で追いつかないくらいです。やらないといけないことが多すぎて遊びに出かけなくなりましたよ」と苦笑する玉助の横で、一輔も「舞台で人形を遣うことが楽しくてたまらないですね。ただ、どんな役であっても基本に忠実に遣うことを心掛けています」と表情を引き締める。

文楽には昔から立役と女方の人形遣いの黄金コンビがいる。近年では初代吉田玉男と吉田簑助、今は当代の吉田玉男と桐竹勘十郎がさまざまな作品で恋人や相手役を演じ、ファンを魅了する。玉助と一輔もその系譜に連なる予感を抱かせる。

「意識しないと言ったら噓になりますが、僕たちは境遇も芸歴も似ています。お芝居に対する考え方も人形を遣う技術のレベルも非常に近い。お互いやりやすいですね」と2人は声をそろえる。

2人の父はともに60歳代の若さで亡くなった。一輔は「父ができなかったことを絶対やってやろうと思って頑張ってきた」と話し、玉助は「父の死後、一匹おおかみのような立場になった。一度、勘十郎さんが遣われる武智光秀の左遣いをやらせていただいてから、いろんな役をいただけるようになった」と語る。

そんな2人が勤める「女殺油地獄」。油商河内屋の放蕩息子、与兵衛は番頭上がりの義父と折り合いが悪く、家庭内暴力を振るう毎日。高利貸しから借りた金の返済に困り、近所の人妻、お吉に借金を頼みに行くが断られ、衝動的に惨殺する。

与兵衛を遣う玉助は「与兵衛はわがままで甘えもあり、現代にもいそうな若者。お吉に借金を頼むとき、『不義になって貸してくだされ』と言うが、それも金を借りるための方便。そういう若者の心理をどう表現できるかですね」。一輔も「お吉と与兵衛の関係を恋愛感情があったという説もありますが、僕たちはないと解釈しています。ただ、お吉を遣うときは色気もにじませたい。その方が作品に複雑さが出ると思う」と話す。

眼目の殺しの場。油まみれになりながら、滑って転んでもんどりうって、という凄惨な光景が、古典芸能特有の殺しの美学へと変貌するのも面白い。(亀岡典子)

夏休み文楽特別公演は、第1部が「ひょうたん池の大なまず」「西遊記」と解説。第2部が「生写朝顔話(しょううつしあさがおばなし)」。第3部が「女殺油地獄」。国立劇場チケットセンター(0570-07-9900)。

この記事の関連ニュース