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頭を空っぽに自由な寒山と拾得 横尾忠則現代美術館「寒山百得展」

産経ニュース 2024年6月28日 18時0分

神戸市灘区の横尾忠則現代美術館は美術家、横尾忠則が寒山と拾得をテーマに、自由な発想でのびのびと描いた「横尾忠則 寒山百得展」を行っている。2年前に同館で開催した「Forward to the Past 横尾忠則 寒山拾得への道」に続く展覧会で、展示された102点は同館ではいずれも初公開の新作となっている。

寒山と拾得は中国・唐代にいたとされる詩僧。ぼろを着て奇妙なふるまいをする風狂僧だが、特に禅宗では悟りを開いた者として重視され、東洋の伝統的画題にもなっている。

横尾が唐の伝説的な風狂僧を主題に選んだきっかけは、1970年代に出合った江戸時代の画家、曽我蕭白の「寒山拾得図」にある。彼らの中に理想の芸術家像を見いだした横尾は、寒山の持つ巻物をトイレットペーパーに、拾得の持つほうきを掃除機に替え、21世紀によみがえらせたのだった。

きっと感性のままに描いたに違いない。本展の作品をながめてゆくと、びっくりするほど色彩が豊かであることに気付かされ、筆が素早く画面を走っていることが分かる。タイトルを「寒山百得」としたのは、自身で「寒山拾得」を100枚描くという目標を立てたことに由来する。走る筆跡は100号(約130センチ×約160センチ)を超える作品を短期間に描いた証しなのである。

モチーフの多彩さにも驚かされる。横一線でゴールに飛び込むスプリンターや、プールで演技するアーティスティックスイミングの選手たちの中に主人公を潜ませたり、フランスの画家、エドアール・マネの「草上の昼食」や江戸時代の狩野派絵師、久隅守景の「納涼図屛風」といった作品のオマージュの中に、寒山と拾得が現れるものもある。

不思議に思えるのは、作品タイトルが「2021-09-03」のように、全て数字で表されていること。担当学芸員の小野尚子さんは「タイトルは制作年月日になっています。横尾さんはそのとき、これに興味があったんだなと、われわれも年代を重ねて追体験ができるようになっています」と言い、作品も時間軸に沿って並ぶ。

例えばゴールするスプリンターたちを描いたのは、2021年の東京五輪に触発されたため。また「2022-12-12」のキュービスム作品は、人物の足元にあるボールが、2022年にカタールで行われたサッカーワールドカップを示している。

「アスリートの瞬間芸のように頭を空っぽにして描いた。風狂の自由人、寒山と拾得はわれわれの中にも潜んでいる。全ての人間のアイデンティティーに集約されているのです」と語る横尾が、自由に、そして多様に描いた作品群を見ていると、つかの間、時代の息苦しさを忘れさせてくれる。

8月25日まで(7月15日、8月12日を除く月曜と、7月16日、8月13日休館)。一般700円ほか。問い合わせ078-855-5607。(正木利和)

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