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あふれる収蔵品「いずれは限界」、全国の博物館6割で 寄贈資料廃棄には反発も

産経ニュース 2024年9月5日 21時0分

全国の博物館で収蔵品の保管が課題となっている。寄贈などで増え続ける一方、保管スペースの拡張は費用面などで難しく、全国の博物館の約6割で、ほぼ満杯だったり入りきらなかったりする状態だ。各自治体が対応を模索するも抜本的な解決には至っておらず、専門家は統一的な指針の必要性を訴えている。

場所足りず仮置き

牛耕用具にかご、機織り道具…。大正から昭和にかけての農具や生活用具を中心に収集、展示している奈良県立民俗博物館(奈良県大和郡山市)の収蔵庫は、さまざまな資料で埋め尽くされていた。

昭和49年の開館時には約7500点だったが、県民からの寄贈を積極的に受け入れた結果、約4万5千点まで増加。本館の収蔵庫(720平方メートル)やプレハブ(333平方メートル)だけでは場所が足りなくなり、廃校となった高校や旧土木事務所に仮置きしている。

こうした場所は保存環境が良好とはいえない上に、館内も令和4年にエアコンが故障し送風のみで夏は高温多湿となる。「保存環境は悪く、カビの発生も懸念される」と同館の高橋史弥学芸員は話す。

こうした状況を踏まえ、山下真知事は今年7月、収蔵品に関するルールを定めた「『民俗資料の収集・保存』の奈良モデル」を発表。収蔵品を3Dアーカイブ化した上で、不要なものは譲渡先を探し、引き取り手がないものは廃棄する方針を示した。

保管場所を巡る課題は、同館に限った話ではない。日本博物館協会が令和元年に全国の博物館を対象にした調査では、2314施設のうち23・3%の施設が「収蔵庫に入りきらない資料がある」と答え、「ほぼ満杯」(33・9%)と答えた施設を合わせると約6割にのぼった。外部に収蔵場所を設けている施設は27・2%となった。

長野県千曲市の長野県立歴史館では、館内にある木製品(約5万点)など考古資料の収蔵庫(約1200平方メートル)がほぼ満杯となったため、保管棚の段数を増やして対応しているが、担当者は「いずれは限界が来る」ともらす。高知県南国市の高知県立歴史民俗資料館でも、収蔵庫の満杯状態が続く。県は検討委員会を立ち上げ、資料の処分基準の策定を含めた対応を協議している。

評価変わる可能性…廃棄に求められる慎重さ

博物館の収蔵品を巡る課題を解決する一案として挙がるのが、廃棄だ。保管スペースに限りがある以上は、文化財的価値が乏しいものから処分するのはやむを得ないとの見方もある。ただ、時代を経てその評価が変わる可能性もあり、慎重な判断が求められる。

博物館法では、博物館の主な役割として、展示や調査研究のほかに、資料の収集・保管を定めている。民衆が暮らしのなかで使い続けてきた民具など文化財とはいえない資料でも、積極的に引き受ける博物館は少なくない。資料を幅広く集めることで、初めて見えてくることもあるからだ。

奈良県立民俗博物館の高橋史弥学芸員は「たとえば、鍬をたくさん集めれば集落によって刃の形状が違うことに気づける。土壌の性質など地域特性の違いで生じたことが分かったりする」と説明する。だからこそ、資料の価値を即座に判断することは難しいという。

奈良県の山下真知事が同館の収蔵品の一部廃棄を検討すると表明した際は、民具研究者でつくる日本民具学会(横浜市)が「価値づけが不十分なままに民俗資料の安易な一括廃棄が行われようとしている」との声明を発表し、神野善治会長は「民具を完全にデータ化することは不可能。廃棄すれば貴重な文化財を失う」との懸念を示した。もっとも、山下氏は「安易な一括廃棄ではない」と反論している。

また、収蔵品の多くは一般の人から寄贈されたものだ。寄贈者が不明な状態で廃棄した場合、後に寄贈者や遺族が判明して権利関係をめぐって提訴される恐れもある。

令和5年には、北海道江別市郷土資料館が市民から寄贈を受けた民具400点以上を寄贈者に連絡せず廃棄したことが明らかになり、市民団体が公開質問状を提出。市教育委員会が「おわび」の文書を市ホームページに掲載する事態となった。

市教委は「担当者と上司が独断で廃棄を判断し、記録にも残していなかったのが問題だった」といい、やむを得ず廃棄する際は事前に市教委や文化財保護委員会に相談し、手続きを記録していくとした。

法政大・金山喜昭教授「文化庁主導し標準書を」

海外の博物館では、収集や活用、除籍などそれぞれの項目ごとに方針や手続きが明文化されているが、日本のほとんどの博物館では明文化されていない。

そのため、一部の博物館では学芸員がおのおのの興味関心で属人的に物を集めたり、誰かの紹介で預かったり、有力者の依頼で断れなかったりして、どんどん収蔵庫が埋まってしまった。そのような資料の集め方をして、開館20年程度で満杯になってしまっている博物館もある。

背景には、これまで組織的に方針立てて資料を収集・管理していこうという発想に乏しかったことがある。今後、各館で方針を作っていく必要があるが、学芸員もトレーニングを受けていないので、博物館単体で作っていくのは難しい。まずは文化庁が主導して手引になるような標準書を示す必要がある。

博物館の資料は地域の文化遺産を伝える宝の山だ。収蔵資料をきちんと管理できるようになれば、住民がより活用できるようになるし、博物館の展示の切り口も広がる。行政も保管理由の説明責任を果たせるようになるなどメリットは大きい。困難だが取り組むべき課題だ。(秋山紀浩)

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