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震災から復興、変わりゆく神戸の街並み大空から記録 自身も被災、鳥瞰図絵師の誓い

産経ニュース 2025年1月11日 17時7分

大空を舞う鳥の目線で街を描く「鳥瞰(ちょうかん)図」。青山大介さん(48)=神戸市=は、平成7年の阪神大震災による壊滅的な被害から復興し、さらに変化していく神戸の街並みを描き続けている鳥瞰図専門の絵師だ。震災から30年がたとうとし、記憶の継承が課題となる中、青山さんはこう誓う。「だからこそ、変わりゆく街の姿を残したい」

元通り「到底無理」

阪神大震災が起きた7年1月17日午前5時46分、神戸市長田区の自宅で就寝中だった青山さんは、突然の激しい揺れで目が覚めた。木造2階建ての自宅は全壊。祖母、両親、兄弟の6人家族に大きなけがはなかったが、木造住宅が密集していた長田区は、家屋の倒壊や火災の被害が甚大だった。

「ああ、もう神戸は終わってしまった。元通りに戻るなんて到底無理だと思った」

惨事に心を痛めながらも、瓦解(がかい)した街の様子をカメラに収めた。抱いたのは「一瞬で失われてしまった街を記録に残しておかなければ、記憶は薄れていく」という思いだった。

屋上の室外機、帆船のマストの形状まで

震災の2年前に鳥瞰図の第一人者だった石原正さん(1937~2005年)の作品に魅せられ、その後、独学で鳥瞰図に取り組んできた。

絵師となった今、鳥瞰図を描く際には、ヘリコプターで街をくまなく回り、膨大な写真を撮る。それをもとにビル一棟一棟の階数、屋上の室外機、港に停泊中の帆船のマストの形状に至るまで図に落とし込む。

平成20年以来、数年ごとに改訂される神戸市内の鳥瞰図「みなと神戸バーズアイマップ」を手がけるが、その際に俯瞰(ふかん)する位置はいつも同じ。その視座は、石原さんの「神戸絵図」(昭和56年)ともほぼ同じにしている。

刻々と変化する神戸

石原さんの神戸絵図には、神戸阪急ビル東館(阪急会館)や神戸新聞会館など、震災前の建物が記録されている。「震災を挟んで、人間の営みとともに刻々と変化する街の様子を浮かび上がらせたい」。神戸絵図やこれまでに青山さんが描いたマップを見比べれば、その変化が手に取るように分かる。

最新の平成29年版には、震災で大きな被害を受け建て替えられた神戸国際会館(中央区)などの高層ビルがある。一方で、岸壁が崩れて水につかったエリアも。震災遺構として現地で被災当時のまま保存されている神戸港震災メモリアルパーク(中央区)も丁寧に描かれている。

「生きているからこそ」

鳥瞰図は通常の地図とは違い、街を包む雰囲気をも表現できる。「正確な記録として、第一級の史料になる」と青山さんは考えている。

震災からもうすぐ30年。全壊した建物がやがて建て直され、街が復興していく様子をつぶさに追ってきた。「令和の神戸の街を見ることができるのも、命があり生きているからこそ。この風景を見ることができなかった人もいる」。一方で、「震災を知らない人が増え、30年前が遠くなった」とも思う。

今年の1月17日には、ヘリコプターから東遊園地で行われる「阪神淡路大震災1・17のつどい」の様子を撮影するつもりだ。「これまでずっと一緒だった神戸の街。これからも共に歩んでいきたい」。大空から、ふるさとを見守り続ける。

鳥瞰図 空から地上を見下ろしたように描かれた地図で、俯瞰図、パノラマ図などとも呼ばれる。山や建物などが立体的に描かれ、観光案内図などで使われることが多い。絵師は国内に数人のみ。高台への避難路が立体的に把握できる利点があり、神戸市がJR三ノ宮駅周辺などに設置した「津波避難情報板」には青山さんの鳥瞰図が使われている。(横山由紀子)

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