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「お前のせいで負けたんや」怪物サウスポー、男子バレー・西田有志を変えた母の叱責

産経ニュース 2024年7月31日 19時33分

52年ぶりのメダルを目指すバレーボール男子日本を「点取り屋」として引っ張るのが、西田有志(24)だ。若くして日の丸を背負い、世界と渡り合ってきた怪物サウスポーが覚醒したきっかけは、高校時代の母からの厳しい言葉だった。

三重県いなべ市出身。姉と兄の影響で5歳でバレーボールを始めた。小学生のときから全国大会に出場。海星高校(同県四日市市)でも2年生でエースと呼ばれ、「春高バレー」の県代表決定戦まで進んだ。

ただ、父の徳美さん(56)には懸念があった。それまでの試合は2セット先取制だったが、決定戦は3セット先取制。もつれれば第5セットまである。ペース配分や事前準備が重要となるため、「体力がいるよ」と忠告していた。

しかし、本人は「大丈夫、大丈夫」と聞き入れる様子はない。結果、終盤で足をつり、コートに戻れないままフルセットの末に敗れた。

「お前のせいで負けたんやぞ」。母の美保さん(58)は涙を流す西田を突き放した。徳美さんとともにバスケットボールの選手だった美保さん。母として、アスリートの先輩として「腹が立った気持ちを、そのままぶつけた」という厳しい言葉が西田を変えた。

当時のコーチだった井口拓也さん(35)は西田の潜在能力の高さを感じつつ、「人のミスにはうるさいのに、自分のミスには甘い」とみていた。ところが、この敗戦を境にトレーニングへの意識は一変。当時監督だった大西正展さん(61)は「もともとパワーやスピードはあったが、それ以上のものを身につけていった」とひたむきな努力を評価する。

高校卒業後、18歳で日本代表入り。世界選手権やワールドカップでの経験を重ね、東京五輪では29年ぶりの準々決勝進出に貢献した。

それまで低迷期にあった男子バレー再興の一歩となったが、世界の壁も痛感し、大会後にイタリアに渡った。「パリ五輪でもっと良い結果を求めたい」と世界のトップレベルでしのぎを削った。

時に厳しく西田を支えてきた美保さんには、1つの確信がある。「不思議だけど、有志が楽しんでいる試合は勝つ」。メダル、そして頂点へ。西田の笑顔がチームを後押しする。(弓場珠希)

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