10日に初日を迎える大相撲九州場所を格別な思いで迎える力士がいる。新十両に昇進したウクライナ出身の安青(あお)錦新大(にしきあらた)関(20)=安治川部屋、本名・ヤブグシシン・ダニーロ=だ。7歳で相撲を始め日本で力士になることを夢見ていたが、ロシアのウクライナ侵攻を受け日本に避難。関西大(大阪府吹田市)相撲部の関係者の支援を受けて角界に入り、異例のスピード出世を遂げた。戦禍が続く祖国に「強い姿を見せたい」と意気込む。
「すてきな化粧まわしでとてもありがたい。関西大学の人たちに感謝して自分らしい相撲で上を目指したい」
5日、関大相撲部から化粧まわしが贈呈された安青錦関は笑顔を見せた。かたわらには日本での生活を支えた関大相撲部コーチの山中新大さん(25)の姿があった。
2人の出会いは2019年10月、堺市で開かれた世界ジュニア相撲選手権大会。「強い子がいるな」。当時、関大1年で相撲部員だった山中さんは、ウクライナ代表として3位に入賞した15歳の安青錦関を見てそう思った。山中さんが声をかけ、安青錦関が帰国後は交流サイトでメッセージをやりとりした。「将来日本で力士になりたい」との夢をよく語っていたという。
来日のきっかけは思わぬ形で訪れた。2022年2月、ロシアがウクライナに侵攻。当初は「大丈夫」と返信していた安青錦関だったが、3月上旬に「日本に避難できますか」と打診があった。
4月、単身で来日。山中さんは相撲の稽古ができる場所を提供しようと奔走。安青錦関は、神戸市内の山中さんの自宅に下宿しながら、関大や報徳学園(兵庫県西宮市)で練習生として部員とともに稽古に励んだ。
そして同12月に安治川部屋入り。それからはトントン拍子だった。昨年の秋場所で初土俵を踏み、年6場所制となった昭和33年以降では歴代5位となる所要7場所での新十両というスピード出世を果たした。
山中さんは安青錦関の相撲について「頭を下げた低い姿勢でぶつかり、日本人らしい相撲を取る。何度も稽古で対戦したが、まったく勝てなかった」と振り返り「このままけがなくいけば、幕内上位を目指せるはず」と期待を寄せる。
安青錦関の相撲に対する姿勢には関大の部員らも一目置く。在学していたわけではなかったが、相撲部OBに「認定」。相撲道場内には歴代部員に名を連ねている。
「優勝を目指して頑張りたい。ウクライナの人にも強い姿を見せたい」と闘志を燃やす。(格清政典)