サッカー女子プロ、WEリーグは3季目が終了し、オフに突入。活躍した選手がレベルアップを目指して海外の新天地を目指す流れが続いている。2季連続の2位だったINAC神戸レオネッサからは、女子日本代表「なでしこジャパン」で正GKを務めてきた山下杏也加(28)のほか、U-20(20歳以下)日本代表のMF天野紗(20)と、レギュラーに定着したDF竹重杏歌理(21)も海外挑戦。若手の海外志向も強まっている。
9日に神戸市東灘区の神戸レディースフットボールセンターで行われたINAC神戸のファン感謝イベント。ウオーキングフットボール(歩くサッカー)やオークションなどでサポーターらと触れ合った3人はそれぞれ、海外を目指す思いを語った。
若手に置いていかれるとの思いも
なでしこジャパンで外国勢との対戦経験も豊富な山下は「日本代表の試合を意識しました。国内リーグで受けるのは日本人(ストライカー)からのシュートばかり。(スピードや間合いの異なる)外国人に対するところで、準備の質や位置取りなど学べる部分はたくさんあると思います。そういうところを意識しながら、同僚になるGKのいいところを盗みたい」と強調する。
自身にとって初めての女子ワールドカップ(W杯)だった2019年フランス大会から海外を意識するようになったそうで「自分がどれだけ通用するのかに興味がありましたが、結局、何もチームに還元というか貢献できませんでした。(GKで)試合に出るのは1人ですし、控えに回ったGKに申し訳ない気持ちがありました」と打ち明ける。山下は「それでも海外に行く機会はあったのですが、なかなか出場機会がめぐってこないポジションですし、自分にサイズや語学があれば、可能性はあったと思います」と外国勢と比べた際の自身の体の大きさや、コーチングや他の選手への声掛けなども重要な役割となるGKとしての言葉の不安から、なかなか踏み切れなかったことを明かした。
このタイミングで海を渡る決断を下したことについては、「(2度目だった昨年の)W杯は自分の中でもできている感じがあったのですが、あと一本のところが届かないというのは、ありました。ベスト4に上がったチームのGKを見ると、スーパーセーブをしたり、PKを止めたり…。その能力は自分はまだ足りていませんでした。(1-2で敗れた準々決勝の)スウェーデン戦を見返しても、(相手のシュートを)止めれるところで止めれないと上にいけない。今の若い選手が海外に行っている中で、自分はこのままでいいのかなと思いながら…。(なでしこジャパンの)半分以上が海外でプレーしていて、置いていかれている感じがあって決断しました」と説明した。
その上で「日本に帰ってきたときに(これまでとの)違いを見せられるように。ゴール前に立ったときに、このGKなら(点が)入らないなと相手に思わせるぐらいの余裕というか、自信を持てるようになりたいと思います」とスケールアップを誓った。
日本代表に入るためにも
一方、INAC神戸のアカデミー(育成組織)出身選手として初めて海外を目指すことになる天野は「アカデミーからずっとINAC神戸でプレーしています。自分自身、INAC神戸のトップチームで活躍して世界で活躍できる選手になりたいですし、今のアカデミーの選手たちからも同じように世界を目指す選手が出てきたらうれしいと思います」と希望を話した。
既に海を渡っている同年代の選手からの刺激を受け、年代別のW杯やアジア・カップで海外勢と対戦する中で、海外でプレーしたい気持ちが徐々に強くなったといい、「食事の面とかで自分に合う合わないとかもあると思います。コミュニケーションの部分も。でも、笑顔だったり、積極性だったりとかで、チームになじんでいければ…。ふだんの過ごし方がプレーにも影響してくると思っています」と持ち前のはつらつさで新天地に溶け込む考えを明かした。
「8割楽しみ。海外でのプレー経験がある人たちの話を聞いているとおもしろいし、楽しみな気持ちがほとんどです」と心境を語った天野は「もっと守備の力強さを高めたり、高強度のプレーを後半の最後の方まで持続させたり、フィジカルを高めたりしたい」とレベルアップのためにフォーカスする部分を語った。ちなみに海外に持っていきたいものは、炊飯器だという。
また、「ちっちゃいころから海外でプレーしたいと思っていました」という竹重は「ずっと日本代表、なでしこジャパンに入ってから海外に行こうと思っていたのですが、(前回の)U-20女子W杯に行けなくて、海外がどうなのかがわからない。だから、日本代表に入るためにも、海外で戦えるというのを、海外挑戦することで証明したいと思いました」と決断の理由を説明。「(性格的に)優柔不断だし、不安になることも多いのですけど、信念みたいなものがあります。そういうところは結構、貫くタイプ。今はどうなるか分からないですが、自分で決めた道ですし、いい方向にするしかないとふっきっています」と前向きな気持ちを打ち明けた。
INAC神戸の歴代の指揮官から将来性を大きく買われてきた竹重は海外で希望していることについては「もっとダイナミックにプレーできるんじゃないかなと期待しています。そうじゃなくても、海外のスピードやフィジカルの中で、自分の持っているものが出せたらいいなと思っています」とした上で「INAC神戸で先輩たちに教えてもらったことを海外でも生かして、ステップアップしていきたいと思います」と向上心をのぞかせた。
(サンケイスポーツ編集委員)