トランプ米大統領は20日、カナダやメキシコからの輸入品に関税を課す姿勢をみせたが、就任演説では関税に関する具体的な言及はなく、「実現の可能性は高くない」との冷静な見方も出ている。
トランプ氏はカナダとメキシコからの輸入品に対し25%の関税を検討していることを明かし、「2月1日にやるつもりだ」と述べた。各国との貿易赤字などの状況を調べるよう関係部署に指示する大統領覚書にも署名した。
トランプ氏は演説で「米国は再び、自国を成長国家と見なすだろう」と強調しつつも、関税については「米国民を富ませるために外国に関税をかけ、課税する」と述べるにとどめた。第一生命経済研究所の前田和馬主任エコノミストは「関税をかければインフレ率は上がる。株価にもネガティブでそこはトランプも意識しているだろう」と指摘する。
演説で具体策に触れたのは移民政策だった。南部国境での国家非常事態を宣言し、「難民申請をする移民をメキシコに待機させる政策を復活させる」と声高に叫んだ。前田氏は「移民をメキシコにとどめるにはメキシコ政府の協力が必要になる。関税は譲歩を引き出す材料でもある」と分析する。
トランプ氏にとって、関税措置を振りかざし、外交上の譲歩を引き出すのは常套手段だ。1期目もさまざまな製品に関税を課し、各国に通商関係の見直しを迫った。米・カナダ・メキシコの3カ国間では、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉につながり、自動車の関税がゼロになる条件を厳しくした米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)が代わることとなった。
メキシコには日本の大手自動車が生産拠点を設けており、実際に関税が課されれば打撃を受けるが、前田氏は「実施しないこともありえるため日本への影響は限定的。トランプ政権の関税措置の影響は抑えられそうだ」と指摘した。前田氏は就任前から主張していたカナダ・メキシコ、中国への関税措置が実行された場合、世界経済の中期的なGDP水準を0・1%押し下げると試算。他国が報復措置に踏み切れば、下押し幅は0・2%まで拡大すると警鐘を鳴らしていた。
対中関税ならインフレ加速
トランプ氏はUSMCAについても、中国製品がメキシコ経由で流入することに不満をみせるが、対中関税は米国内のインフレを加速させる要因ともなるため、前田氏は中国との交渉は「長い目線になる」という。日本製品に対する関税措置についても、「国家の非常事態という建前は使えず、通常の通商交渉となるため、時間的な猶予はある」と話した。
とはいえ、世論や経済指標に敏感なトランプ氏にとって、対中国が経済政策の中心となる。前田氏は「演説で対中関税に触れなかったことは不気味なところ。警戒は必要だ」と注意を促している。(高木克聡)