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米トランプ政権復活なら台湾危機も 日本は防衛力増強で備えよ エモット英誌元編集長

産経ニュース 2024年7月24日 12時11分

知日派として知られる英誌エコノミスト元編集長、ビル・エモット氏が23日、産経新聞のインタビューに応じた。米大統領選でトランプ前大統領が台湾防衛に消極的な姿勢を示していると指摘し、共和党政権が復活すれば、中国の台湾侵攻を「誘発しかねない」と懸念を示した。アジアの紛争抑止では、日本の防衛力が「極めて重要になる」と指摘。憲法9条改正を急ぐべきだとも述べた。

ハリス氏勝機「60%」と予想

米大統領選ではバイデン大統領が撤退し、ハリス副大統領が民主党の有力候補に浮上している。エモット氏はトランプ、ハリス両氏の対決となれば「ハリス氏が優勢。勝つ確率は60%」と予想した。

その理由について、「衰弱したバイデン氏に不安を抱き、仕方なくトランプ氏に投票しようとした浮動票を取り戻せる。米国では新顔で若く、変化をもたらせる候補が有利」と述べた。トランプ氏は銃撃事件で注目を集めたが、「支持率に変化はなかった。当時の興奮は長く続かない」として、事件の影響は限定的だと指摘した。

アジア外交についてエモット氏は、民主、共和両党は日韓などとの同盟を重視する方針で同じだが、「バイデン氏は台湾防衛で米国が軍事介入する意思があると明言したのに対し、トランプ氏は言わない」と違いを強調した。トランプ政権が復活すれば、「習近平国家主席は『今こそ行動の時』と決断しかねない。きわめて危険だ」と警告し、米中の軍事衝突に発展する可能性も排除できないと述べた。

AUKUS解散の懸念も

また、バイデン政権が構築した米英豪3カ国の安全保障枠組みAUKUS(オーカス)についても、トランプ政権なら解消に動くと予測した。「共和党タカ派はオーストラリアは中国から遠く、対中抑止への貢献が薄いと考えている」と説明した。

日本についてエモット氏は、政府が2022年、防衛費を27年度に国内総生産(GDP)比2%に増やす方針を閣議決定したことを高く評価した。米外交の先行きが不透明になる中、日本が防衛力を増強しながら、インドネシアやフィリピンなど東南アジア諸国と関係を深めることが危機抑止で重要だと主張した。「日本は憲法の制約が、抑止への貢献で弱みとなっている。どこまで部隊展開できるのか、常に疑念がつきまとう」と指摘。憲法改正を優先課題とするよう促し、「今後5年間」で取り組むべきだと訴えた。

エモット氏は、新著「第三次世界大戦をいかに止めるか 台湾有事のリスクと日本が果たすべき役割」(扶桑社)の出版にあわせて来日した。東京都内でインタビューに応じた。(三井美奈)

エモット氏とのインタビュー概要は以下の通り。

ーー米大統領選の行方は

「バイデン大統領の撤退表明前、トランプ前大統領が勝つ確率は60%あると思っていた。いまは、ハリス副大統領が民主党候補になれば、勝つ確率は60%あると考える。米国では、新顔で若く、変化をもたらせる候補が有利だ」

「銃撃事件でトランプ氏が拳を振り上げたポーズの衝撃は大きかったが、支持率に変化はなかった。興奮は長く続かない。トランプ氏は自分を強く見せようとしているが、事件の被害者になった。矛盾した宣伝効果を生んだ」

ーー民主、共和両党のアジア政策は

「中国に対して同盟国と関係を強化する路線は、だいたい同じ。異なるのは、トランプ氏の台湾に対する態度だ。トランプ氏は最近、米ブルームバーグ通信(のインタビュー)で、台湾は半導体で米国経済に打撃を与えていると主張した。台湾は米国の防衛にカネを払うべきだとも述べた。彼は大統領になったら台湾と取引して、米国製武器を買わせるか、米軍作戦への金銭支援を引き出そうとするのではないか」

「バイデン氏は、台湾を防衛するために米国は軍事介入すると明言したが、トランプは言わない。できないと思っているのかもしれない。習近平国家主席や人民解放軍は『今こそ行動の時』と決断しかねない。そうなれば、トランプ氏が関与を渋っても、共和党の側近は中国と戦うべきだと主張する。台湾を失えば、米国はインド太平洋全体で軍事的影響力を失うからだ。米国が優位に立つ核兵器が重みを増してくる」

ーAUKUSの行方は

「トランプ政権で主力となる共和党タカ派は、オーストラリアは中国から遠く、対中抑止への貢献が薄いと考えている。米国の潜水艦が南シナ海、東シナ海を航行すればよく、AUKUSは成果が出るのに時間と金がかかりすぎると思っている。AUKUSはバイデンの政策だから、壊してよいと思うだろう。日米印豪4カ国のクアッドは金がかからない。インドが参加しているから、残すだろう」

ーウクライナ戦争は

「ウクライナはF16戦闘機を供与される予定で、兵力動員も強化した。戦果をあげれば、トランプ氏は支持して自分の手柄にしようとするだろう。すぐ停戦させようとするかどうかは疑問だ」

ー日本の役割は

「日本は防衛力を増強すると同時に、周辺国、特に東南アジアとの関係を深めるべきだ。米国の影響力が低下すれば、これらの国は、危機対応で極めて重要になる。日本の防衛力への信頼がカギになる。抑止力への貢献で日本の弱みは、憲法の制約だ。日本が部隊展開できるかどうか分からなければ、抑止への影響力は薄れてしまう。9条改正は優先課題とすべきだ。今後5年以内の取り組みが重要だ」

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