【ワシントン=渡辺浩生】米シンクタンク「ハドソン研究所」のワインスタイン日本部長が6日までに取材に応じた。トランプ前大統領の大統領選勝利を受けて、石破茂首相は「トランプ氏に真剣な提案をした安倍晋三元首相と同じことをする必要がある」と述べ、トランプ氏と早期に会談し日本の防衛力強化に関するプランを提示すべきだと石破氏に促した。
安倍氏は2016年11月、ニューヨークを訪問し、大統領選で当選した直後のトランプ氏と外国首脳として初めて対面で会談、関係構築の契機となった。
ワインスタイン氏は、安倍氏が「自由で開かれたインド太平洋」をトランプ氏に提案し政権の主要戦略として採用された前例に触れ、「石破氏も本格的な防衛計画を提案し、米国と連携しつつ防衛力を増強する意思を示すべきだ」と訴えた。具体的には、台湾防衛のカギとなる日本の南西諸島防衛や北朝鮮への対応、米国向け投資計画を例に挙げた。
ワインスタイン氏は「石破氏とトランプ氏との相性は心配していない」と強調。「石破氏はトランプ氏と同じように一般の社会通念に疑い深い人物。トランプ氏は長年、ワシントンコンセンサスと闘い、石破氏も東京コンセンサスと闘ってきた」と述べた。
ワシントンコンセンサスは米財務省や国際機関が主導して市場原理に基づく自由化、財政規律、規制緩和などを世界に普及させる考え方で、トランプ氏は対抗し、補助金や輸入関税などを通じ自国産業を優遇する「米国第一主義」を掲げた。
ワインスタイン氏によると、石破氏の地方創生策は「地方第一主義」でトランプ氏の政治理念と共通しているという。
一方、米次期政権の安全保障戦略に関し「トランプ氏は本能的に抑止という概念を理解している」と指摘。中国やロシア、北朝鮮、イランといった権威主義勢力に対してバイデン現政権下で低下したとする抑止力の強化に取り組む見通しを示した。
ウクライナに侵略を続けるロシアに部隊を派兵した北朝鮮については、トランプ氏が制裁措置で中露と連携できた1期目の時点と比べ「はるかに問題は複雑化している」と指摘。日米韓3カ国の安全保障協力は「対北抑止に極めて重要となる」との見方を示した。
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ケネス・ワインスタイン氏 国際政治学者。2011年にハドソン研究所所長就任。20年3月に当時のトランプ大統領から駐日大使に指名され、上院外交委員会で承認されたが、本会議採決に至らぬまま21年1月に議会会期が終了した。23年7月から同研究所日本部長。