パレスチナ自治区ガザを巡るイスラエルとイスラム原理主義組織ハマスの停戦合意では、バイデン米政権の長期に渡る仲介外交と、今月20日の発足を前に中東の不安定要因を除去したいトランプ次期政権の思惑が複合的に作用した。各地に飛び火した戦闘による域内パワーバランスの変化も交渉前進の要因となった。
バイデン政権はガザで戦闘が発生した2023年10月以降、人質となった米国籍保有者の解放やガザ住民の被害抑制、紛争の政治的解決を目指し停戦の仲介を進めてきた。しかし影響力は限定的で、交渉は難航した。
局面が変わったのは、イスラエルとレバノンの親イラン民兵組織ヒズボラの停戦が発効した昨年11月27日だ。交渉過程に詳しい米政府高官は、それまでのハマスは「騎兵隊が助けに来ると信じていた」と語る。イランなどの援護で状況が好転することへの期待があった、との意味だ。
だが、同国の代理勢力であるヒズボラの退潮がはっきりし、ハマスの抗戦心理は揺らいだ。12月8日には親イラン陣営の一翼だったシリアのアサド政権が崩壊。ハマスは孤立を深めた。
そんな中、サリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)、バーンズ中央情報局(CIA)長官、マクガーク中東政策調整官を中心とするバイデン政権の交渉団は、カタール、エジプトとともに仲介を加速。ハマスはなおも解放対象の人質について明確な返答を拒むなど煮え切らない態度を続けたが、米側が交渉を打ち切る姿勢をみせると一転して歩み寄りをみせたという。
交渉団にはトランプ次期政権で中東担当特使に起用されるスティーブン・ウィトコフ氏も参加した。同高官によれば、カタール首都ドーハでの詰めの協議でイスラエル側の確約が必要な場面で、マクガーク氏が協議を続ける間にウィトコフ氏が同国へ飛び、ネタニヤフ首相と面会してドーハへ戻るといった「連係プレー」も展開された。
ガザ停戦は、就任前に「戦闘が終わっていることを望む」としてきたトランプ次期大統領にとっても大きな政治的利益。ハマス壊滅を掲げるネタニヤフ氏は、トランプ氏との良好な関係を維持するには合意は不可欠と判断した可能性が高い。
米政権の移行期という外交的に不透明な時期ながら、現・次期大統領の思惑が一致したことが交渉妥結につながった。
「私の政権が成し遂げた」。停戦合意を受けた15日、バイデン氏は国民向け演説でこう胸を張った。トランプ氏は同日、「私が当選したおかげだ」と交流サイト(SNS)に書き込んだ。(ワシントン 大内清)